「ミックス玉」
古い時代のお好み焼店の姿が今でも残る貴重なお店「山口お好み屋」を訪問。
かつて炭鉱町だったこの地に育まれたお店。炭鉱はなくなったが、このお店は半世紀以上経ったいまも生き続けている。
正方形の鉄板の一辺に焼き手が立ち、残りのコの字型の三辺に客が着席する昔ながらのスタイル。
「ミックス玉」(630円)をいただく。
ここでいうミックスとは、うどんとそばが両方入っているという意味。余談だが、兵庫から広島にかけてはうどんとそばを混ぜたものをちゃんぽんと呼ぶことが多い。
キャベツ、もやしを鉄板に載せて、刻んだ練物、天かす、塩などを振った後、輪状の土手をつくり、その内側で牛脂か豚脂のようなもので麺を炒める。魚粉らしきものはたっぷり振り掛ける。野菜と麺とを混ぜてから上に卵を割り落としひっくり返して底面を卵でとじる。再びひっくり返しまったくとろみのない昔風のソースを塗って完成。つまり小麦粉の生地のようなものを用いていない。
鉄板上でヘラ(コテ)で小さく切りながらいただいた。おいしい。
このお店には小麦粉の生地を用いる「おこのみ」や「文化焼」というメニューもある。再訪してそれらも試してみたい。
Restaurant name |
Yamaguchi Okonomiya
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Categories | Okonomiyaki、Chow Mein Noodle |
0955-63-2766 |
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Reservation Availability |
Cannot be reserved |
Address |
佐賀県唐津市厳木町岩屋1077 |
Transportation |
JR九州 岩屋駅 徒歩15分 1,077 meters from Iwaya. |
Opening hours |
Business hours and holidays are subject to change, so please check with the restaurant before visiting. |
Budget(Aggregate of reviews) |
~¥999~¥999
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Method of payment |
Credit Cards Not Accepted Electronic money Not Accepted |
Number of seats |
30 Seats ( 鉄板焼きテーブル6人がけ3,4人がけテーブル1,小上がり4人がけテーブル2) |
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Private dining rooms |
not allowed |
Private use |
not allowed |
Non-smoking/smoking |
No smoking at all tables |
Parking lot |
OK |
Occasion |
With family/children |With friends/colleagues This occasion is recommended by many people. |
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Service |
Take-out |
With children |
Kids are welcome |
「山口お好み屋」は、炭鉱町だったこの地に昭和30年代半ばから営まれているお好み焼店。現在でも当時のままのお好み焼を提供し続けるお店として貴重な存在。
久しぶりに訪ねた。
平日15時台。先客なし。滞在中の後客なし。調理用と食事用を兼ねた鉄板台に面した席に着く。
父娘といった風情のお二人で営業中。現在の主力は娘さんのようにお見受けする。たいへん感じのいい接遇をなさる。
前回は「ミックス玉」という、焼そばと焼うどんを混ぜた、兵庫県あたりでよく「ちゃんぽん」と呼ばれるようなものをいただいた。
今回は「文玉」(430円)をお願いした。
「文玉」は「文化焼」(380円)に玉子を加えたものである。そして「文化焼」は、そば入りのお好み焼である。地域によっては「モダン焼」などと呼ぶことも多いだろう。430円という価格は前回訪問時より50円ほど高くなっているものの、それでもたいへん安価。
娘さんの調理は以下の如く。
鉄板に、キャベツ、もやし、天滓、刻んだ蒲鉾と薩摩揚らしきものを載せる。これらを混合し輪状の土手をつくる。土手の内側で剥き出しになった鉄板上に豚脂のようなものを塗りつけ、そこにそばを投入。そばは、加熱加工済の太めの中華麺。土手の内側でそばをかんたんに炒めたら、周りの土手を崩してそばと混ぜ合わせ、塩、胡椒、削り節を振りかけ、ソースを添加。ソースはとろみのないウスターソースのようなもの。これらすべてを鉄板上で混ぜ合わせ、いわゆるソース焼そばのようなものとする。
傍らに生地を薄く円く展ばし、その上にソース焼そばを載せる。上から繋ぎの生地を垂らす。これをひっくり返し、対面からも加熱。ほどよく焼けたら再度ひっくり返して正位に戻し、上面に玉子を割り落とし、展ばす。またひっくり返して玉子側を鉄板に触れさせる。四たびひっくり返し正位に戻す。上側にきた焼けた玉子面にさきほどと同じとろみのないソースを塗り、削り節を振りかけて8分間ほどで完成。
カトラリーとしてコテのほか、フォークも出されるのがおもしろい。
鉄板から直にコテでいただいた。
太めのそばは柔らかく、キャベツはザックリした歯触りが賑やか。神経質さや気取りがなく、その味わいも魅力。
とろみのないドライなソース、塩、削り節、蒲鉾、薩摩揚といったものが、古風な味わいを醸す。
そのなかでは玉子の甘いような風味に華やぎを覚える。なんとなく、玉子が贅沢品だったという時代の特別感が想像されるような気がした。
こちらの「文玉」「文化焼」は、上記のとおり「野菜と麺を混ぜ合わせて炒めて薄焼生地に載せる」という調理だった。自分が訪ねたことがあるお好み焼屋さんのうち、麺入りのお好み焼にこちらと同じ調理法を採るお店として思い出せるのは、
岐阜県大垣市「れんげ草」
和歌山県御坊市「まりちゃん」
兵庫県神戸市「ひかりや」
兵庫県姫路市「なかざと」「のんびり」「あめや」「十・十」「あんくる」
岡山県岡山市「上田食堂」
愛媛県今治市「たんぽぽ」
広島県三原市「たぬき」「まこと屋」「一休」
広島県呉市「そなり亭」「いき」
山口県宇部市「おか」「せっちゃん」
熊本県熊本市「いで」
といったところ。
あくまでも自分の行動圏内での話だが、それでもけっこう広範囲に散らばっているように思う。
例が多いようなのは兵庫県。この焼き方は兵庫県が発祥だろうとする説がでてきても不思議はない。
しかし岐阜県大垣市の「れんげ草」のご主人は、この焼き方は昔大阪市のお好み焼店で学んだものだとおっしゃった。また、未訪ながら京都府にも似たような焼き方をするお店がいくつもあるという。
お好み焼も焼そばも東京で生まれて西へ広まったものなので、もしかするとこの焼き方も東京発祥で京都府や大阪府を経て兵庫県が中興の祖となり更に西の九州まで一旦は広く普及したのだ、というようにも考えられないだろうか。(焼そばの東京から北への伝播も示唆的。)その後、大阪市と広島市で起こったイノベーションによってまずは大阪市、広島市でほぼ淘汰され、更にその後、大阪市、広島市が周囲や遠隔地にまで影響力を及ぼすようになって、その他の地域でも淘汰が進んでいるのではないか。そして比較的抵抗力があって淘汰が最後になりそうなのが兵庫県なのではないか。そんな見方もできそうな気がしてくる。
もっとも、それはまったく妄想の域を出ない。とくに近畿東部や中部地方の状況に疎いことが痛い。
いずれにしろ、高度成長期以降の大阪、広島の強大な影響をかわして旧来のスタイルを保ちながら生き延びているこちらのようなお店が少ないながらもあり、令和のいまも訪ねることができるというのは、つくづく幸せなことだと思う。