旨辛のたれを吸った牛肉をご飯の上にバウンドさせていただきます : Tengu Sakaba Kabukizamae Higashiginzaten

　居酒屋チェーン店はずいぶん通いました。東京に出てきたばかりの学生時代初期、一番お世話になったのは「村さ来」です。なんといっても安い。人生で初めて「すずめ」を食べたのもここでした。ちょっと豪華に行こうという時は「つぼ八」。生意気にも使い分けていました。新宿には雰囲気のいいつぼ八が多かった。

　数年後、居酒屋ののれんをくぐる時に緊張することがなくなった学生時代後期、「庄や」と「養老乃瀧」の回数が増えました。学生だけじゃなく、会社帰りのおじさんたちも利用する居酒屋で杯を傾けると、おれも大人になったなと自身の成長を感じたものです。

　池袋周辺に住んでいたという特性から、地場のチェーン店、「清流」もよく使いました。コップからあふれた日本酒が升いっぱいに注がれた升酒が呑め、客の大半がこれまでの居酒屋チェーン店のお客さんより明らかに酔っていました。みんな泥酔している。こういう呑み方こそ、大人の男の呑み方だ、と当時は思ったものです。

　しかし、社会人になって数年したころから、忙しいのと転勤が多くてチェーン店より地元の飲み屋をのぞく楽しみを覚えたため、チェーン店から足が遠のきました。笑笑や和民はそのころに出てきたチェーン店なので、過去に合わせても数回しか入ったことがありません。たぶん２回かな。

　そんな中、結構いい歳になり、生活拠点も東京に戻った社会人中堅時代、毎週のように池袋で呑む時期があり、久しぶりに居酒屋チェーン店に行ってみようと入ったのが「天狗」でした。当時は（いまもかな）漢字で書いていました。安くてそこそこうまくて清潔。必要な条件はクリアしていました。ほかのチェーン店と比べて勝っていたのは、個人的な味の趣味に一番近かったということでしょうか。それが１年ほど続いたでしょうか。飽きました。チェーン店通いは卒業です。

　と思っていたら、東銀座に「テング」があり、ランチに定食を出しているではありませんか。早速入りました。頼んだのは「旨辛！　牛肉の鉄板焼きセット」（７００円）。安い。ご飯の大盛やお代わり、味噌汁のお代わりが無料です。さすが。

　カウンターで、隣の人と微妙な距離を保って昼食。熱々の鉄板の上には牛丼の牛バラのようにちょっと歯があたると溶けてしまうような肉。その脇を固めるのがもやしと玉ねぎ。ピリッとした辛さとニンニクが混ざったオイルに浸っています。たれをつけた肉やもやしをご飯の上に一度バウンドしてからいただきました。あぁ、チープだけど、後を引く味。両隣の若い会社員は大きな鳥からのセットを頼み、大盛ご飯をさらにお代わりしていました。食べ盛りにはたまらないでしょうね。私は並み盛りにしたのにお腹がぱんぱんでお代わりできませんでした。