マイスター ユーハイム 日本橋三越本店/地階にて catch & release : Maisuta Yuhaimu

もうこないだのこと。
日本橋で映画を観終わってスマホを立ち上げると、Yから「甘いものが食べたい」なんてリクエストが届いていたものだから、目の前のぼくのコンビニ、三越本店へと潜行し、小さな、ミルフィーユ三つくらいの箱詰めを入手

でもそれだけだとちょっと寂しいかなと思って、別のお店でカットして袋詰めされていたバームクーヘンをばらで一つ追加。ミルフィーユを入れてくれた袋があるのでそのまま裸でもらおうとしたところ、売り子の(便宜上の)お姉さまが、「こちらよろしかったら試食してみてください」と、クッキーをくださった。
わずかなものを購入しただけなのに、これじゃあ物的には2倍になったようでこちらとしてはluckyだけど、お店的には大丈夫なのかなぁ ?　と、そのときは思った

Yは私の顔を見るなり私の持っていたお菓子屋さんの袋に気付いたようで、「それ、私にですか ?」ともう異常な興味を示してくるので(笑)、一旦は意地悪してとぼけてやり過ごし、バイトが引けたあとにいっしょにご飯したときに、温めていたそれをやっと手渡したしたところ、そんな子供騙しでもたいそう喜んでいるよう。
今思えばこのとき、ぼくは三越デパ地下の(便宜上の)お姉さまの仕掛けた釣り針に、完全に掛かってしまっていたのだと思う。
もうアゴ［注］まで完全に、いくら藻搔いても決して外れないってくらいに ……

注) アゴ：釣り針についている、肉に食い込んで針を逆戻りさせなくさせる“かえし”のこと。ヘラブナなど、純粋に釣りを楽しむだけで最後には放してしまうような対象魚に対しては、魚体を痛めぬよう、そういった残酷な形状の針は用いない。要は、ぼくは残酷な罠に掛かってしまったということ

その一週間後の先週の日曜日。
女の子二人連れての焼肉を辛くも回避することが出来て(経済的に)安堵するぼくに、Yがまたもご飯食わせろとなって、どさくさに紛れてこないだのクッキーの、今度は詰め合わせが欲しいと言い出した。
ぼくはそのYのあざとさよりも寧ろ、これまでの人生の中でクッキーなんて特別は美味しいものという認識が無かったので、何故クッキーなのかな ?　ということのほうが興味深かった。
クッキーよりはまだ、バームクーヘンのほうが美味いんじゃなかろうかと ……

そしてお姉さまが巧妙に仕込んでいたクッキー販促のパンフレットがここでも最高の効果を発揮し !　その画像とともに畳み掛けるように、
「この左の一番大きいやつじゃないとダメですよ」
などと、Yの要求は更にエスカレート !

なんでもそれは“テーゲベック”という、お茶菓子を意味する伝統的なドイツ料理(料理/笑)らしく、日本橋髙島屋でしか取扱いがない幻の逸品とのことだが、それを何故三越で、あのお姉さまは持っていたのだろうか ……
しかし試供品か知らないがそれをバームクーヘン一切れしか買わない野郎に手渡して、どうせこの輩はお菓子なんか自分で食うような顔してないから女の子にあげる為なのだろう。そしてこの男は既にそういった女の子たちの奴隷と化しているから、言われるがままに必ずや、このGermanクッキーの詰め合わせを買いに戻ってくる !
と、ぼくはまんまとお姉さまから、大きくなって戻っておいでとばかりにcatch & releaseされたのだろうか ?
だとしたらもう、大したものだとしか言いようがないじゃないか !

―― 最近飲食店のスタッフにはハテナマークを感じてばかりだけど、やっぱり最高峰のデパ地下には未だに、優秀な売り子さんたちが揃ってるもんなんだなぁ ……　感心するわ ♪