卓越したオーソドキシー
美を食する場所
広尾天現寺の境内に白を基調にしたモダニズム風の建物がある。入口の看板には、青草窠、との店名が記されている。青草窠とは「緑に囲まれた安らげるところ」という意味であり、カウンター席の奥に架けられた北大路魯山人が篆刻した扁額に由来している。
アートに造詣の深いオーナーの永坂氏のセンスによるものなのであろう、一見したところ、余計な装飾を排した白壁の店内はモダンなアートギャラリー風である。だが、炉を切った本格的な茶室が設えてある通り、この店は茶懐石をベースとした正統派の日本料理を提供する店である。
料理人は滋賀の名料亭、招福楼出身の山井氏である。出汁のキレは素晴らしく、技術も確かであり、美味しさは折り紙付きである。だが、山井氏の料理の美点は何というか、絶妙な(ある意味、ストイックといっても良いほどの)バランス感覚にあるように私は思っている。コース全体として極めて完成度が高い。もちろん個々として美味しくはある。だが、後日振り返って、しみじみとその日の料理の全体としてのうまさを思い起こさせるのである。(吸い地のキレ、舌に崩れる名残の鱧の柔らかさ、汁気に満ちた炙り松茸の香り、イチジクと白味噌の上品な甘味、キモソースをまぶした濃密な蒸し鮑の旨味、口中に溶けゆく水羊羹の食感、抹茶の爽やかなほろ苦さ…そういったものが渾然一体となりフラッシュバックのように脳裏に蘇ってくる。)それは山井氏の絶妙なバランス感覚によって支えられているように私には思われるのである。
この店のもう一人の主役は、オーナーの永坂氏の美意識である。現代作家の作品や貴重な骨董に彩られた料理たちは、居住まいを正したくなるような美しさであり、和食にとって器が料理を構成する重要要素であることを再認識させられる。(酒器もこだわり抜いている。新政の酒をと合わせたオールドバカラも見慣れぬ品で感じ入るものがあった)私が究極的には和食に惹かれてしまうのは、こういった五感を通じて喚起される美の喜びなのかもしれない。日本美術は歴史を通じて季節と花鳥風月を表現してきたが、こちらの空間でこの演出でこの料理を頂くことは、自分にとってのアート鑑賞であり、美意識の錬磨であるような気がしている。
伝統的文脈の強い料亭と異なるモダンなプレゼンテーション。昨今目に付く高額和食とは一線を画す知性を感じさせるストイックな料理。美というものはどのような方向性のものであれ常に調和の中にあると言われる通り、茶懐石をはじめとする食を美に高める営為が、この店のような姿勢に向かうのは当然のことなのだろう。アートを身に纏った端正な料理たちと向きあう時間は、私にとってかけがえのない至福のひと時なのである。
Restaurant name |
Sei Soka(Sei Soka)
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Categories | Japanese Cuisine |
Phone number (for reservation and inquiry) |
03-3473-3103 |
Reservation Availability |
Reservations Only |
Address |
東京都港区南麻布4-2-34 天現寺スクエア1F |
Transportation |
10 minutes walk from Tokyo Metro "Hiroo" station 2 minutes walk from Toei bus "Tengenjibashi" bus stop 495 meters from Hiro o. |
Opening hours |
Business hours and holidays are subject to change, so please check with the restaurant before visiting. |
Budget |
¥30,000~¥39,999 ¥15,000~¥19,999 |
Budget(Aggregate of reviews) |
¥20,000~¥29,999¥20,000~¥29,999
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Method of payment |
Credit Cards Accepted (Diners) Electronic money Not Accepted |
Table money/charge |
10% |
Number of seats |
25 Seats ( 6 counter seats, 1 tea room, 2 private rooms (large and small)) |
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Private dining rooms |
OK For 2 people、For 4 people、For 6 people、For 8 people Children are allowed in the private rooms. |
Private use |
not allowed |
Non-smoking/smoking |
No smoking at all tables |
Parking lot |
not allowed |
Space/facilities |
Stylish space,Comfortable space,Counter,Tatami seats,Horigotatsu seats |
Drink |
Japanese sake (Nihonshu),Japanese spirits (Shochu),Wine,Particular about Japanese sake (Nihonshu) |
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Food |
Particular about vegetable,Particular about fish,Vegetarian menu |
Occasion |
With family/children |Business |With friends/colleagues This occasion is recommended by many people. |
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Location |
Secluded restaurant,House restaurant |
With children |
Kids are welcome |
Remarks |
[Lunch] 7,000 yen, 15,000 yen (You can also reserve the evening courses below) [Dinner] 25,000 yen, 30,000 yen, 35,000 yen *Tax and service charge not included, 10% service charge |
何気ない黒豆に唸る。爽やかな甘みを残し口中に消えていく。どれだけじっくりと煮込んだのか、海老芋に染み渡る出汁の旨さ。生唐墨の塩辛には、突き抜ける強烈な旨味と塩気。何気ない善舞(薇)煮すら滋味深い。
品書きに華やかさはない。見慣れた料理が丹精に白木の重に敷き詰められている。
お節といえば、そもそもは多忙な正月の保存食であり、品に込めた吉祥への願いは首肯できるが、そこに舌を喜ばせる味わいまでを期待することは無粋にも思われる。だが、山井氏の仕事を経ると、かくも味覚を喚起する料理になるのか、と感服してしまう。
大切な人々の長寿を祈念し、ちょろぎを口にする。開運の願いを込めて、叩き牛蒡を口にする。にしめをいただきながら家族の和を願う。ふたたび黒豆。今年もまめまめしく勤労に励まねば。大変な状況はまだまだ続くが、どうか健やかな一年となりますように。