名店「あめこや」が、良い形で引き継がれている
一時ミシュランガイドにも掲載されていた「あめこや」の突然の閉店は驚いた。
私の嗜好と合致する有難い蕎麦屋だっただけに残念に思っていたが、以前からご主人の上田さんの片腕となっていた方が引き継ぎ、そのままの店舗で開業したという情報が入り安堵したとともに、是非一度伺いたいと思っていた。
現状は夜だけの営業で17時から開けており、一応前日に席の確保の電話を入れてまだ外は明るい開店時刻きっかりに入店。
若いご主人と、接客を担当する男性スタッフの2人で営まれている。
カウンターの一番奥の席に通された。
店の内外の雰囲気は「あめこや」のままで、開いたメニューも基本的に変わっていない。
まずはこちらならではの、生ビールの「ガージェリー・エステラ」をもらう。
お通しには「蕎麦ずしと蛍烏賊の酢味噌かけ」と言ったものが出て来たが、辛子がピリッと効いた酢味噌の加減が好ましい。
こういった洒落たお通しが出てくるところも前店と同様で、まずは上々のスタート。
肴は大いに迷うが、季節ものを中心に次のような品々を注文。
「刺身盛り合せ」:どのようなスタイルで出されるか楽しみだったが、横長の皿にこの日の刺身5種(細魚・金目・ほうぼう・真鯛・北寄貝)が少量ずつ並んでおり、包丁技の冴えが見られ山葵やつまものもきちんとした仕事。
味の面ではしっかりとした食感の細魚、歯応え良く旨味も濃いほうぼう、生ながら癖の無い北寄貝が特に良かった。
「苺とスナップエンドウの白和え」:小粒の苺と食感の良いスナップエンドウが、豆腐を使った白和え衣で合わせられている。
通常は白胡麻を使うところを砕いた胡桃が加えられ、味と歯触りのアクセントになっているのは良いアイデア。
控えめな味付けで素材の良さが生かされており、なかなか美味しい。
「牡蠣の塩辛とマスカルポーネ」:牡蠣の塩辛は臭みなどは無く旨味が熟成。
烏賊の塩辛や酒盗とクリームチーズの取り合わせは良く見掛けるが、塩分の少なく円やかなマスカルポーネを合わせるところに創意が感じられる。
まさに珍味で、燗酒に良く合った。
「白身魚と山菜の蕗味噌グラタン」:鯛の身と筍・独活・こごみ・タラの芽などのたっぷりの山菜が、蕗味噌を混ぜたベシャメルソースで合えてオーブンで焼き上げられている。
香ばしい焦げ目と熱々の状態が好ましく、スプーンを差し込むと次々と現れる具材の味と食感が楽しい。
結構なボリュームながらこちらも抑え目な塩加減で、春の恵みを堪能させてくれた。
酒の豊富な品揃えも相変わらず。
まずこの時期に相応しい「石鎚 純米吟醸 春の酒と「19 Le cerisier rose m'apporte」を8勺のグラスで、その後に「篠峯 山廃純米生原酒」を燗でもらい、さらに「春霞 純米 美郷錦」をハーフサイズでお願いする。
いずれも選りすぐった銘柄だけに、料理の美味さと相俟って豊かな気分に浸れた。
蕎麦は産地別の食べ比べが出来る「2種盛り」を注文。
1枚目は「越前大野在来」、2枚目は「旭川 キタワセ」。
ともに十割で、微粉が端正に打たれており、茹で上げが精妙で水切りもしっかりのため食感も良好。
香りや味わいには微妙な違いが有り、香りでは大野在来がやや勝り、味の面ではキタワセに蕎麦自体の旨味が強いように感じたが、いずれも優れた仕事である。
つゆも丁寧な仕事で、それほど濃くは無いがバランスの取れた上品な仕上がり。
最初は蕎麦のみを啜り、その後で少量のつゆを口に含む手法で食べてみたが、より双方の味の違いが確認できた。
蕎麦湯は手が加えられて白濁が濃く粘度も感じられるが、つゆの美味さのおかげでそれほど悪い印象は無かった。
徳利に残ったつゆも余さず割り、全てを飲み干して満足感に浸る。
期待通りの充実した「蕎麦屋酒」を楽しめた。
料理・酒・蕎麦のいずれにもハイレベルな仕事が認められ、名店「あめこや」の技がきちんと引き継がれている。
勘定は外税のため9千円を少し出たが、内容に照らせば相当。
ご主人の真摯な仕事ぶりには好感が持て、接客スタッフのスマートな対応も良かった。
この日(訪店日:3/24)は折からのコロナウイルスへの警戒のためか、19時近くまで居て後客は1組という状況だったが、これから人気店になることは必至。
品数が豊富で手の込んだ料理も多いため、立て込むと流れがスムーズで無くなる恐れは有る。
ゆっくりしたければ開店直後が狙い目のようだ。
先日訪れた石神井の「野饗」を継いだ「きくち」同様に、弟子の方により名店が存続していくのは誠に慶ばしい。
「あめこや」と同じく、これからも大事な一軒にしたいと思う。
評価は初回のため今後へのさらなる期待を込めて、少し控えめに付けさせていただいている。
Restaurant name |
Shiote
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Categories | Soba、Izakaya (Tavern) |
Phone number (for reservation and inquiry) |
03-6432-6949 |
Reservation Availability |
Reservations available |
Address |
東京都世田谷区豪徳寺1-46-14 海倖マンション 1F |
Transportation |
小田急線豪徳寺駅徒歩3分 172 meters from Gotokuji. |
Opening hours |
Business hours and holidays are subject to change, so please check with the restaurant before visiting. |
Budget |
¥3,000~¥3,999 |
Budget(Aggregate of reviews) |
¥6,000~¥7,999
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Method of payment |
Credit Cards Accepted (AMEX) Electronic money Not Accepted |
Number of seats |
20 Seats ( カウンター4席、4人テーブルx4) |
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Private dining rooms |
not allowed |
Private use |
not allowed |
Non-smoking/smoking |
No smoking at all tables |
Parking lot |
not allowed |
Space/facilities |
Counter |
Drink |
Japanese sake (Nihonshu),Japanese spirits (Shochu),Wine,Cocktails,Particular about Japanese sake (Nihonshu) |
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Occasion |
This occasion is recommended by many people. |
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The opening day |
2019.11.27 |
開店から間の無い頃に訪れて好ましい印象が残っていたため、再訪しようと思いつつ随分間が空いてしまった。
数日前に電話を入れて席を確保の上、平日の夕刻に向かう。
約束の時刻より少し遅れて17時半ごろに到着したが、すでに地元客と思われる1組が入店済み。
私には「あめこや」の頃から思い出深い、カウンター奥の席が用意されていた。
店は調理に専念するご主人と、接客全般を担当する信頼のおけるベテランの男性スタッフの2人で賄われている。
今回は瓶ビール(ヱビス)で始める。
お通しには「花山葵の酢醤油付け」が出されたが、歯触り良く適度な辛味が好ましい。
メニューは相変わらず豊富で、手書きされてびっしりと並んでいる。
まず目を引くのは質の良さが記憶に残る刺身で、この日も7種類が用意されている。
「盛り合わせ」で注文したが、内容は次の通り。
歯応えの良い「白みる貝」、ねっとりとした歯触りで湯引きのゲソも添えられた「あおりいか」、脂が上品で旨味たっぷりの「本鮪中とろ」、分厚く切られた「平目」、繊細な味わいの「細魚の糸つくり」、皮目が焙られた「金目鯛」、全て鮮度良く包丁技も冴えており実に美味しい。
つまには蓮芋の薄切りが添えられ、おろし山葵も上質。
その後に3品をポツポツと追加。
「韃靼蕎麦の実入りポテトサラダ」:香ばしい煎った韃靼蕎麦の実が混ぜ込まれ、上に貝割れ菜がトッピング。
ポテサラ自体は滑らかな舌触りで、蕎麦の粒々感がアクセントとなっている。
添えられた韓国海苔に包んでも美味しい。
「帆立と菜花の出汁巻き」:大き目にカットされた帆立と菜花が綺麗に巻かれており、見栄えも味も上々。
通常のサイズでは多いのでご主人は小さ目に作ってくれたが、結構なボリューム。
染めおろしを添えて頂く。
「里芋の酒盗焼き」:同じようなメニューをかつての「あめこや」で頼んだことが有ったため、比較して見ようと試してみた。
前店では子芋を焙烙のような器に並べ、酒盗入りのソースを掛けてオーブンで焼き付けるスタイルだったが、こちらではペースト状に潰した里芋に刻んだ酒盗などを混ぜて、表面に香ばしい焦げ目が付けられている。
熱々をスプーンで掬って口に運べば、滑らかな舌触りと酒盗の風味が中々良い。
酒の品揃えにも拘りが感じられる。
8勺がグラスに注がれて供される。
「篠峯 純米吟醸 凛々」は、フルーティーな口当たりでまろやかな味わいが印象的。
「鷹来屋 特別純米」は、シャープな飲み口できりっとした辛口。
これらで暫し、ゆったりした時間が流れる。
蕎麦は「鴨汁そば」を、産地別の食べ比べが出来る「2種もり」でお願いする。
1枚目は「広島 庄原」で、中太に端正に揃っており、香りも有りシャキッとした歯応えも良好。
2枚目は「青森 十和田」とのこと。見た目は似ているが香りにより穀物感があり、ややモチっとした歯触りが心地よい。
「鴨汁」は昨今の流行のように分厚く切った抱き身を用いるスタイルでは無く、細かく切った端肉が入っている。
その分良く煮込むことで旨味が十分つゆに溶け込んでおり、濃厚なつけ汁に仕上がっている。
最初は蕎麦を啜り、その後でつゆを少量口に含む手法で食べ進めるが、より両者の良さが楽しめた。
これには赤ワインを合わせて見たくなり、ラングドックの「ムーラン・ド・ガサック」のピノ・ノワールを一杯もらったが、「鴨汁そば」との相性は殊の外よく大いに満足できた。
蕎麦湯はかなりの粘度が添加されたドロドロ系。
釜湯のままの江戸前流を佳しとする私の主義には反するが、つゆの旨さのおかげで悪い印象は無く、偶にはこういったものも良いかなと思う。
普通はこれで打ち止めだが、混んでいるほどではないので少しゆっくりしたい気分。
メニューの甘味の欄に載る「黒ビールとビターチョコのアイス」が気になり頼んでみる。
黒ビールとチョコの苦みの相乗効果?で、甘さが押させられた大人のデザートは中々美味しかった。
期待通りの気持ちの良い蕎麦屋酒が楽しめた。
ご主人の確かな腕前は蕎麦前も蕎麦にも発揮されており、安定感が見て取れる。
接客スタッフのそつのない応対ぶりも好印象。
この日の勘定は9千円ちょっとで、満足度に照らせば相当に思う。
この日はそれほど立て込んではおらず、目の前のご主人とは少し言葉を交わすことが出来た。
話題は小田急線沿線の蕎麦屋事情、「あめこや」の上田さんの消息や同系列で昨年閉店した「シカモア」についてなど。
小田急線の各駅には優れた蕎麦屋が多いが、何れも私好みの快適な蕎麦屋酒が楽しめる処がほとんど。
こちらも個性的だが、居心地の良さでは屈指の佳店。
信頼のおける一軒として、これからも折を見て通い続けたい。