実直 : Wagokoro Izumi

冬の泉さん。価格改定で値段が上がっていましたが、今回も一番上のコース（税サ込39,270円）をお願いしました。

いただいたものは下記の通り。
先付（雲子・雲丹）
椀物（河豚真薯・厚揚げ）
向付（鯛、もんごいか、金目鯛、トロ）
温物（海老芋・下仁田葱）
冷し物（ズワイ蟹）
八寸（カラスミの飯蒸し、海鼠・海鼠腸、いくら、牛蒡湯葉巻き、カステラ、河内鴨ロース、白和え等）
焼物（鰤・すぐき）
炊合せ（牛頬肉の蕪蒸し・百合根・銀杏）
胡桃ご飯
水物（苺、紅マドンナ、メロン、ル・レクチェ、ブランマンジェ）
菓子（椿餅）
お薄

雲子と雲丹の先付は酸味のあるジュレで。泉さんらしい酸味の使い方で食欲が刺激されます。

椀物の出汁は昆布主体。椀種の真薯を崩して食べ進めていくと、吸い地は豊かな味わいに。なかなかハイレベルだと思います。

椀物以上に好印象だったのが、温物と炊合せ。どちらも滋味深い逸品でした。牛頬肉の蕪蒸しは、以前いただいた時にはしっくりこなかったのですが、この日のものは非常に美味しかったです。和食のコースで肉を供されても、せいぜい思っていたよりも美味しいという程度の感想で終わることがほとんどなのですが、この蕪蒸しには思わず唸ってしまいました。

向付は価格を考えるともう少し期待したいというのが本音。トロや金目鯛は無理して出さなくてもいいような気がします。鰤の焼物も火が入りすぎていたなかと。当店の向付と焼物とはもう一つ相性が良くないようです。

一方、冷し物で供されたズワイ蟹（津居山）は、セコ蟹も含め、まずまず良好。八寸も丁寧な仕事振りが伺えるもので、高いレベルで安定しています。

値上げは料理のクオリティを保つためのものだと考えていいでしょう。ズワイ蟹の提供量はそれほど多くありませんでしたが、私には適量のように感じました。最近流行りの和食屋のような派手さはありませんが、当店の料理からは店主たちの実直さが伝わってきます。

春の泉さん。ちょうどズワイ蟹が終わりを迎える頃でした。

先付（小柱、海鼠腸、蕾菜・汲上湯葉・雲丹・車海老）
椀物（蛤、菱餅、木の芽等）
向付（鯛、もんごいか、金目鯛、トロ）
田楽（蕗味噌、木の芽味噌）
八寸（もろこ、蛍烏賊、玉こんにゃく・きゅうり・車海老、鴨ロース、雛チラシ、玉子カステラ、小女子のくぎ煮）
鱒の塩焼
冷し物（ずわい蟹、菜の花、ホワイトアスパラガス）
炊合せ（鮑、厚揚げ、蕗）
蟹ご飯
水物（柑橘のババロア、柑橘二種、苺）
菓子（引千切）
お薄

先付は酸味の効いたジュレで。食欲が搔き立てられる一品です。椀物の出汁は一口目からガツンと来ない良い塩梅でした。どちらも当店らしい料理だと思います。

向付はトロがイマイチも、鯛は食感・香りとまずまず。コース価格を考えると、もう少し期待したいというのも本音ではあります。田楽、八寸は丁寧な仕事ぶりがうかがえました。

何度か伺っている中で、もう一つしっくり来ないのが焼物。今回の鱒の塩焼きも他の料理と比べるとイマイチというのが本音です。

その一方で、冷し物で供された津居山のズワイ蟹は甘味に富んでおり美味しかったです。炊合せや〆の蟹ご飯も好印象でした。

店主の真面目な性格が料理にも良く表れていると思います。うま味・塩味を盛り込んだだけの分かりやすい料理を好む方には不向きかもしれませんが、出汁は京都の和食屋の中でも上位に入るはずです。

冬の泉さんに。

先付（雲子豆腐）
椀物（蛤真薯と厚揚げ）
向付（鯛、紋甲いか、金目鯛、トロ）
八寸（海鼠の共和え、とんぶり、水菜・湯葉・牛蒡、鶉、鴨ロース、カステラ玉子、ズワイ蟹の脚と共和え、こっぺ）
焼物（鰤、いぶりがっこ、大根おろし）
蕪蒸し（近江牛、銀杏等）
黒豆と胡桃のご飯
水物（紅マドンナ、栃乙女、ル・レクチェ、人参のババロア）
鳴門金時の菓子
お薄

椀物は昆布主体の出汁と椀種の調和がよく取れています。三口目くらいで整う計算された塩梅。

八寸は味に濃淡を付けて。季節感を大事にされているのが伝わってきます。ズワイ蟹は津居山のもの。うま味・甘味があって美味しかったです。

焼物は他の料理と比べると凡庸とも。蕪蒸しは近江牛を使用したもの。悪くはありませんが、蕪蒸しはやはり甘鯛の方がしっくり来るのではないかなと。

手の込んだ丁寧な仕事振りが光っています。一口目から味がしっかりし過ぎている濃い味・強い味の料理を供するお店が持て囃されていますが、そういったお店よりも当店の方がずっとハイレベルだと思います。

秋の泉さんにお邪魔しました。コース価格が少し上がったようで、32,200円のコースをお願いしました。

先付（柿なます・渡り蟹）
椀物（鱧真薯・松茸）
向付（鯛、剣先イカ、金目鯛、大トロ）
お凌ぎ（穴子の蒸し寿司）
八寸（鶉、鴨ロース、きぬかつぎ、玉子カステラ、栗甘煮、いくら等）
焼物 (子持ち鮎)
冷し物（そば、松茸）
炊合せ（甚五右エ門芋、茗荷、針生姜、厚揚げ）
松茸ご飯
水物（菊のアイス、ピオーネ、梨、柿、メロン）
銀杏を使ったお菓子
お薄

椀物の出汁は昆布主体。鱧の真薯を崩して食べ進めると吸い地が豊かに。個人的には骨切した鱧の方が好きですが、味の塩梅は素晴らしいなと思いました。松茸は高野山のものだったと記憶しています。

向付では鯛（明石）がまずまず、剣先イカ（長崎）と金目鯛（静岡）も悪くなかったかなと。大トロ（大間）は不要というのが本音。

お凌ぎや八寸も手抜きなく丁寧に作られています。八寸はメリハリの効いた味付けで、お酒が美味しくなります。この時期のいくらは堪りません。

当店の鮎はお客さんからの評判が高いのだそう。この時期は子持ちになるわけですが、鮎自身の油を利用して長時間かけて焼くそうです。パリパリっとした食感は楽しめますが、炭の香りが漂ってくるような焼き方の方が私の好みではあります。

炊合せはうま味・塩味と丁度良く、素材の味を覆わない味付け。何とも滋味深い味わいです。当店の炊物は私の好みのド真ん中ということが多いです。〆の松茸ご飯も美味しかったです。

値げ幅を優に上回る満足度でした。派手なパフォーマンスや分かりやすさこそありませんが、ハイレベルだと思います。

夏の泉さん。夜には伺えなかったので、昼に夜の税サ別25,000円のコースをお願いしました。

先付(車海老・冬瓜・オクラの酢味噌和え)
椀物(鱧の蓮蒸し真薯)
向付(鯛、剣先イカ、トロ、いさき)
お凌ぎ(蒲焼きと白焼の鱧寿司二種、鯛の粽寿司)
八寸(近江牛イチボ、胡瓜、鬼灯、枝豆、八幡巻き、玉子カステラ等)
焼物(鮎塩焼き)
冷し物(岩牡蠣)
炊合せ(賀茂茄子と鮑の味噌仕立て)
鰻茶漬け
水物(ピオーネ、マンゴー、桃、スイカ等)
黒豆水羊羹
お薄

蓮蒸し真薯の椀は滋味深い味。昆布主体の出汁が真薯と出会うと味わいが増します。これだけのレベルの椀物を安定して提供できる和食屋はそうそうないでしょう。向付も鯛や剣先いかはまずまず。

八寸も手抜きを感じません。八幡巻きは他店でも頂く機会がありますが、当店のものはかなりクオリティが高いのではないかなと。冷し物の岩牡蠣もジューシーで食べ応えがありました。

当店のスペシャリテ(?)である鮎の塩焼きはカリッカリッの食感が身上。他店とは一味違った食感と香ばしさがありますが、私が鮎の塩焼きに求める香りではないというのも本音。当店のものも美味しいとは思いますが、鮎の香りや炭の香りをもっとストレートに感じるものの方が私の好みではあります。

丹精を凝らした料理から店主の実直なお人柄が伺えます。調理は奥の厨房で行われるので、カウンター席でも臨場感に欠けますが、流行りのパフォーマンスだけのお店とは一線を画しているといっていいでしょう。

春の泉さん。この春に訪問した和食屋の中では一、二を争う満足度でした。

先付（長芋そうめん、雲丹、車海老、タラの芽、蕨）
椀物（アブラメ、蓬真薯、厚揚げ）
向付（ながすくじら、トロ、鯛、もんごいか）
田楽（木の芽味噌/蕗味噌）
八寸(筍、鯛の子、車海老、胡瓜、蒟蒻、サヨリの柿の葉寿司、イチボのロースト、蛍烏賊、一寸豆、カステラ玉子、赤貝のてっぱい)
焼物（もろこ）
冷し物（畔蛸の岩牡蠣、ホワイトアスパラガス）
炊合せ（若竹煮）
筍ご飯
水物（苺、文旦、メロン、白味噌のババロア）
菓子（桜餅）
お薄

椀物の出汁は昆布主体。一口目は淡い所から始まり、椀種とともに食べ進めていくに連れ豊かな吸い地に。蓬の苦味も良い仕事をしています。ピークアウトしない素晴らしいお椀でした。

若竹煮も筍（塚原）の甘味に寄り添う味付け。若布（鳴門）、蕗、木の芽とオーソドックスですが、全体の調和が素晴らしく、こちらもハイレベル。筍は〆のご飯でも。こちらも非常に美味しかったです。

上記以外でも、さっぱりと仕上げた先付にセンスの良さを感じましたし、岩牡蠣のうま味も印象に残りました。店主はあまり表に出ませんが、食材は吟味されていますし、真面目な仕事振りにも目を見張るものがあります。

冬の泉さんに。夜の税サ別25,000円のコースをお願いしました。

先付（車海老、湯葉、雲丹）
大根の炊いたん
椀物（伊勢海老真薯と厚揚げ）
向付（鯛、トロ、もんごいか、鰤、あこう）
蒸し物（近江牛ほほ肉の蕪蒸し）
冷し物（こっぺ半身と雄の足一本）
八寸(いくら、鶉、海鼠、雲子、山ごぼうと湯葉、玉子カステラ)
焼物（鰆、柴漬けおろしで）
炊合せ（鴨、海老芋）
自然薯ご飯
水物（ラ・フランス、紅マドンナ、苺、キャラメルのババロア）
お菓子（椿餅）
お薄

出汁は淡すぎる塩梅でしたが、真薯の方は塩味がしっかりしており、真薯を崩していただくとお椀の輪郭がはっきり見えてきました。食べ進めるにつれて、伊勢海老の旨味・甘味が際立ってきます。出汁と椀種が一体となって味わいが増しました。

蒸し物は牛の頬肉の蕪蒸し。銀杏入りでしたが、蕪蒸しには銀杏は不要というのが私の持論です。蕪の甘味と煮込んだ頬肉の甘味も合わないわけではありませんが、ここはオーソドックスに甘鯛の方が良いのではないかなと。焼物の鰆も少々火を入れすぎでしたし、香ばしさも物足りない気がしました。

メイン食材のズワイ蟹は津居山のもの。コッペを半身と雄の脚が一本。甘味もあってまずまず。炊合せは鴨の団子が非常に美味しかったです。出汁もGood。椀物と焚き物のクオリティは秀逸でした。

コース間の価格差は、食材の種類・量に反映されています。当然、部位にも差があると考えるべきでしょう。目当てのメイン食材がある時期には高いコースを、それ以外は価格を落としてというような使い方もいいのではないかなと。日本酒は幅広い価格帯が揃えられており、入手難易度の高いレアなものも。半合で3,000円超というものもありますが、流通価格を考えれば割高とまではいかないのかなと。

ランチでの訪問。ランチのコースは6,600円、11,000円、そして17,250円(夜の一番安いコース)が基本のようです。これより上の価格帯も受け付けてはいるようですが、今回は17,250円のコースでお願いしました。

先付（唐墨大根）
大根の炊いたん
椀物（アコウの真薯、厚揚げ）
向付（鮪、鯛、もんごいか、金目鯛）
飯蒸し（穴子、銀杏、栗）
八寸（鴨ロース、牛蒡の湯葉巻き、白和え、いくら、雲子、とんぶり、玉子焼き）
焼物（鰆）
冷物（そば）
炊き合わせ（小蕪、里芋等）
胡桃ご飯
水物（キャラメルのババロア、ラ・フランス、代白柿、苺）
鳴門金時の御菓子
お薄

椀物は前回ほどの感動は得られなかったというのが本音。鰹のインパクトに頼った品の無い出汁ではありませんでしたが、椀種に比してうま味・塩味を気持ち強く感じたせいか、期待していたよりもピークが低いところに来てしまったかなと。

向付はこの価格では種類・質ともに不満を感じませんでした。八寸の鴨ロースといくらは酒のアテだとしても塩気が少々強めか。玉子焼きは白身魚を使用したもので、品のある甘味が好印象。鰆はちょっと火を入れすぎも、添えられた柴漬けおろしは酸味の利かせ方が面白いものでした。

この日最も好印象だったのが、終盤の小蕪と里芋の炊合せ。前回訪問時同様、滋味深く、落ち着く味わいでした。

日本酒は幅広く揃えられており、半合でも提供していただけるので、色々ちょっとずつ飲みたい向きに良いのではないでしょうか。ただし、値段は安くはないかなと。他のお客さんが召し上がっていたランチのコース（おそらく11,000円）がかなりお得に見えてしまい、そちらにすれば良かったかなとも。

桜田ご出身の泉氏が桜田の跡地（ホテル日航プリンセスの裏手）に移転・開業したお店だそうです。ミシュラン二つ星、食べログでの評価も4.05(2021.11.12)と超高評価店。久しぶりに良い和食屋に出会えたなと。

夜は15,000円、20,000円、25,000円（いずれも税サ別）の三種類のコースが基本。頼まれれば、もっと上の金額でも対応可能なようです。以下は当日いただいた25,000円のコースになります。

先付（松茸、舞茸、車海老、銀杏等）
椀物（鱧、松茸、揚げ出し豆腐）
向付（アコウダイ、目板鰈、ひらまさ、トロ）
蒸し物（イチボ、松茸、銀杏、木耳等）
八寸（鴨ロース、枝豆、丹波栗、小芋、玉子カステラ、甘鯛、いくら、無花果と生ハムの胡麻クリーム掛け）
焼物（子持ち鮎）
冷物（冬瓜そうめん）
炊合せ（茄子、蓮根餅、茗荷、針生姜、ほうれん草）
ご飯・赤出汁、香の物、おかず（ちりめん山椒、塩昆布、鰹節、梅干し等）
無花果7種、梨、キャラメルのババロア
鳴門金時の菓子
お薄

この時期のメイン食材である松茸は山形産とのこと。先付は季節の物を中心に酸味の効いたジュレを掛けたもの。目を見張るようなものではありませんでしたが、訪問日は蒸し暑かっただけにさっぱりしたスターターが食欲を刺激してくれました。

鱧松椀の出汁は一口目はうま味を感じるものの、どこか物足りなさも残るもの。二口目、三口目と食べ進めていくにつれて照準がピタリとあってくる塩梅に仕上げられていました。鰹のインパクトに頼らないもので、最後までピークアウトせずにいただけました。椀種の鱧は半身を骨切りに、残りの半身は骨を抜いた形で。好みの問題でしょうが、骨切りした部分の方が圧倒的に美味しかったです。

向付の中ではアコウダイが一番好印象だったでしょうか。目板鰈やヒラマサもまずまず。大間のトロはイマイチかなと。

蒸し物は酸味を利かせた味付け自体は悪くなかったのですが、イチボが硬すぎたのは残念。八寸はメリハリの利いた味付け。丁寧な仕事振りが伺えましたが、鴨ロースやいくらは塩気が幾分強すぎとも。

落ち鮎（琵琶湖）は店主こだわりの焼き方で。長時間掛けて焼き上げるそうで、パリパリ・サクサクの食感に仕上げられていました。焼物らしい香ばしさはそれほど感じませんでしたが、クリスプ感は凄かったです。蓼酢おろしは割りと酸味の角が立ったものでした。

椀物だけでなく、冬瓜素麺や炊合せも好印象でした。予約困難店や超高評価店を訪れても、こういった出汁の美味しいお店が何と少ないことか。

食材の質には驚きはありませんでしたが、出汁はハイレベル。酸味の使い方は個性的ですが、私は嫌いではありません。昼でも店主がお店に出ているようですから、比較的手頃なランチ（6,000円だったか）から試してみても良いのではないかなと。予約も割と簡単。器も良いものを使われていると思いますし、接客も高級店として大きな不足があるようには感じませんでした。