さすがの貫録の老舗旅館 : Monjusou Shouro Tei

天橋立の名刹文殊院の裏手にある老舗旅館です。
死ぬまでに一度は踏みを見ようということになった日本三景の天橋立。どうせならいい和風旅館に泊まってカニを食べたい、ということで行って参りました。

天橋立と阿蘇海に臨み、遊覧船乗り場や天橋立の入り口廻旋橋にも至近、それでいて奥まっているため観光地の喧騒とは無縁という、申し分ない立地。
築６０年超という平屋建ての数寄屋造りの旅館は、今出来の建物にはないしっとり落ち着いた風情です。
きちんと手入れされ、冬場の床暖房など新しい設備も整っています。
お風呂はラジウムも含まれるという天橋立温泉です。

食事は朝夕とも部屋食です。

夕食のコースは各種ありますが、冬の基本懐石は松葉蟹がメイン。
夕方、係りの仲居さんがさっきまで動いていたという松葉蟹を運んできて、希望の料理方法を尋ねます。
このコースでは一人一匹ずつの蟹の調理方法が選べるのです。
一匹はお造りと焼き蟹に、もう一匹はまるごと茹でて頂くことにしました。

天橋立の入り口近くを散策し、温泉で冷えた体を温めて部屋に戻れば夕食です。

２月も下旬ということで、まず雛飾りをかたどった前菜が運ばれます。色とりどりの一口サイズのお料理のあちこちに、蕗、蛍烏賊、筍、土筆など春の食材が顔を出します。
和食はこの繊細さと遊び心が楽しいです。

かに真丈の煮物椀など頂いていると、先ほどの蟹の一番太い足がお造りとなって登場します。
粒状に開いた半透明の身が美しく、わざわざ日本海側まで足を運んだ甲斐があるというものです。
焼き蟹は、ベテランの仲居さんが部屋で焼いてくれます。
そうこうするうちに、まるごとの茹で蟹も到着です。

焼きたて、ゆで立て、さばきたてなので、早く召し上がってといわれるのがちと忙しい。
美味しいうちに食べて欲しいという気持ちなので、文句も言えませんが。
おかげであまりお酒が進まずに済みました。
ちなみに塗り桶に入った冷酒の出し方も素敵。

新鮮な松葉蟹はどの調理方法でもさすがのお味でしたが、焼いた蟹味噌に真っ白な身を絡めて頂くのが格別だったかな。

朝食もきれいに整った旅館の朝ごはん。
朝一番に届く松葉のジュースから〆の出来立て葛切りまで手が込んでいます。
もちろん朝食自体も、だし巻き卵、一塩の鰈、炊き合わせと美味しく頂きました。

サービスは細かいところまで行き届いていて、さすが老舗旅館と思わせます。
古風におっとりしたところもあり、あまりかしこまらないのがうれしいです。

至れり尽せりの高級旅館ですが、蟹以外のシーズンまたは冬でも蟹をメインとしないプランなら３万円台から。
蟹をメインにすると料金が倍に跳ね上がってしまうので、コスパ的には季節を選んだ方がいいかもしれません。
その方が正統派の懐石料理を堪能できそうですし。

とはいえ蟹の産地の宿はシーズン中、民宿でもびっくりするような料金ですから、施設やサービス全体を考えると蟹のお宿としてもコスパは悪くないと思います。