美食考察記　第六十八話 : Nanakusa

人間誰しも舌の記憶は美化される傾向がありますが、
食に目覚めてから「一度は足を運んでおけばよかった、もっと通っておけばよかった！」と思う店が何軒かあります。

パッと思いつくところでは、
東京では、四谷の済南賓館、国立の蕎麦懐石大平、岡田周三氏時代の下北沢小笹、高橋徳男氏時代のアピシウス、ラ・ベルドゥジュール、
京都では、先代の永田基男氏時代の千花、松鮨、南一、地方では長崎とら寿し等でしょうか。

大塚にあったなべ家も、その一軒であり、私が訪問したのは二十代半ばの頃ですが、
料理の価値が今以上に理解出来ていなかった当時ですら、その味わいに感動したものでした。
なべ家の料理を継承する店としては（非公認ですが）神楽坂の山さきも良い店と思いますが、
私にしてみれば、旨さの絶対値が異なる印象があります。

さて、こちらは、その大塚なべ家で修業した女性店主が営む創作日本料理店です。
料理のスタイルは修業先とは全く異なり、女性的な感性で構築された、季節のおまかせコース料理のみ。
江戸料理やねぎま鍋等の鍋料理、旬の超高級食材等は出て来ませんので、
それらを期待して伺うと拍子抜けしてしまうかもしれません。。。
個人的には、修行先の印象に捉われることなく、七草の味として楽しんで戴きたいところです。

器やカトラリー等も若手作家を中心に良いものを揃えられており、料金もお手頃。
予約も取り辛くはないので、「言うことなし！」と言いたいところですが、唯一の不満は、そのボリューム。
恐らく、成人男性には、腹七分くらいの食後感かもしれません。。。

なお、予約時に締めのご飯の量を何とか調整とお願いしたこともありますが、御対応頂けないようでした。
とはいっても、全体的な満足度が高い店であることは変わりありません。
初めての方には少しわかり辛い場所にありますが、沿線の和食好きの（特に女性の）方は、
一度は足を運ぶ価値のある一軒と思います。