夏はすだちと共に : Soba Akitsu

地元埼玉のお蕎麦やさん。
基本ご亭主と奥様のお二人で営業されているので、
入店も提供も待つのは基本であるし、
提供の順番もなかなか思うに任せないところも
あるにはあるが。
まぁそれでもここの良さは十二分にあって。
ゆったりとした時間の流れの中で過ごしたい時には
とても良いお店。

お店に上がるのに入り口で靴を脱ぐ。
その事からして、このお店が提供したいのが何か
わかるでは無いか。

注文したのは
◆おろしぶっかけ
◆すだち涼味
◆そばがき

この時期「すだちの冷やかけ」を熱望するのは
味以上のものがあるからだ。

夏の「すだち」はよそいきだ。
柚子の様な大らかさや、
レモンの様な若々しさではなく。
深緑の色を映したかのような香りの蒼さといい、
穏やかな酸味といい、静謐な佇まいがあって。
コレが品の良さと言うものかと、
自らを省みたりするのだけれど。

そんな品の良い酸味が汁の中に放たれ、
時間と共に味わいを変えてゆくのを
しみじみと感じると。
あぁ今年もこの味に逢えたなぁと。
今年も生きながらえて、来年も…
そんな風に思う。
時期的に夏越の祓と重なることもあり、
背筋を伸ばして味わう「すだちの冷かけ」は
ワタクシにとっては厄祓いのようなもの。
そして家庭料理ではないあくまで「よそいき」な
お店の味なのである。

たけのこ、鮎、松茸、トリュフ、熊に蟹。
季節ごとに熱望する美味は様々あれど、
庶民に手の届く価格帯でありつつ、
居住まいを正す様な気持ちにまでなれるのは、
すだちならではだなぁと思う。
薬味でありつつ主役。
「すだちの冷かけ」を考案してくれた方には、
ホントに感謝だ。

ここのすだちの冷かけも、また逸品。
蕎麦の穀物らしい風情の舌触りと出汁の豊かさに、
すだちの酸の妙味。
極少量添えられた茗荷と青紫蘇が香りに華を添え。
音を立ててごくごくと一気に飲み干してしまいたい、
そんな衝動を理性で抑えて、すぅっと頂く。
冷たいのだけれども冷え過ぎてはいない、
その温度感が味わいを豊かにしてくれる。
あぁ、美味しい。
すだちのある国に生まれて良かった。
夏はすだちと共にある。