オトナの駄菓子屋
ホットドッグや肉まんといった
「食事ではないが、そこそこヴォリュームのあるもの」
は、いつ食べたらいいのか分からなくなって久しい。
食事にしてしまうと簡便にすぎて、物足りないような気がするし、そうかと言って食事と食事の間、晩酌前の「虫やしない」「お八つ」に食べてしまうと半端に腹が膨らみ、メシなり酒の味を殺してしまうところがあり、
「一回ぶんの空腹を損した」
と感じてしまう。
中高年の声を聞き、身体の代謝が落ち、胃袋の働きがニブくなると、お鮨屋でも料理屋でも注文する量が減り、酒量も落ち、結果、経済なので、若い時に比べ不都合を感じるという事はなく、却って、
「美味、珍味なんざ指先くらいをチョイともらうのが本筋で、馬みたいにガブガブ食うなんざ野暮天の極みだね、カバじゃあるまいし、美食はジジーからに限る! 」
なんて嘯く昨今であるが、バッテリー公園からリバティ島への遊覧船待ちの間、スタンドから流れてくるソーセージの匂いを嗅いだり、旺角のオタクの殿堂(って古いか)信和中心の裏、路地沿いの茶餐廳の店先で肉包の入った蒸篭から盛大に立ち上る湯気、などを目にすると、悔しいとも、恨めしいとも異なる、独特な「やるせなさ」が胸に浮かんできて、ため息をついてしまう。
ご同輩諸兄、ジャムパン、シベリア、どら焼きなどなど、最後にいつ口に入れたか、覚えてらっしゃいますか?
と、言うわけで、食べ物を腹に入れる回数、一回あたり、一日での総量などを、美容の面ではなく「美味く食うため」、常に無意識に、しかし、冷徹に計算しているおぢさんであるが、では、お八つ的な「あってもなくても」な飲み食いをしないか、というと、そうでもない。
出先で早上がりしてしまった中途半端な時間、夕食前のカクテルタイムやハッピーアワー、友人との会食前の「フライング」と、何かと「隙間」時間を縫っては、「立ち飲み」「スタンドバー」「バーのコントワール」「お酒屋さんの片隅(は、少なくなったね)」
…など、ちょいちょい場所を見つけては、熱量は大してなく、腹具合も圧倒しないモノで、軽く一杯、カルイチの儀に、これつとめる。
ノガミ・シティ。
鉄道ガード下界隈での「カルイチ」というと、食べログ的にはハム・カツ・ゴールデントライアングル http://www.tv-tokyo.co.jp/adomachi/backnumber/20140830/105048.html (因みに命名者は、今はなきレビュアー「シヌモノビンボー氏」)であろうが、人気が出すぎ、いつも混んでいるし、「虫やしない」にしては、やや御菜に偏重しているきらいがある。
結果この頃は自然、こちらに足が向く。
エチゴからの出稼ぎ族、集団就職世代を根っこに持つ企業体「吉池」の商う「立って飲む」店。
ガランとした店内全体に、立って飲むためのカウンターと脚の長い腰高なテーブルが配置されており、店の奥側にある帳場で酒を、レジ前のテーブルに置かれたチョッとしたツマミとともに注文し、代金引換で受け取り、好きな場所で勝手にやってくださいな、という調子のスタイル。
飲んで食べたらサヨウナラ、な店だし、勘定安いし、ここで宴をはる、という事もなかろうから、店内普請は簡潔を極め、品書きは壁に狭しと貼られた紙短冊。
情緒と雰囲気主体な、風流系酔人には物足りない造りだろうが、ご案内の「お八つ」「虫やしない」なタッチ&ゴーな場所と割り切れば、過不足は、ない。
過不足のない店では、ひや酒(ここでは冷やした一升瓶から注がれるもののこと)に決めている。
決めているのに理由はない、あったとしても忘れてしまった。
もしあるとすれば、立ち飲みでビールは何処かしら性急すぎ、燗は店のあり方とテムポが合わず、さらに申せばこちらは90いくつある、エチゴの蔵元の「普通酒」「本醸造」クラスの酒が常に20あまり揃っているから、その中からその日の気分でドクドクとコップにやってもらうと、愉快だから、とは、いかにもサラリーマン向け夕刊紙のグルメ紹介みたいなモノイイだから黙っている。
そう思いながら、魚沼「鶴齢」の変哲のないやつをナミナミと、グラスに重ねた升が溢れそうになるほど入れてもらい、近所の吉池デパート鮮魚売り場のトップ・エンド、歩留まりロスの部分なのかわからないが、不揃いでありながら、思いの外鮮度のいい白身だのマグロぶつだのの「ちょびっとサイズ」なお刺身、中指ほどの太さで、これも小売には適さなそうなタラコを、さっと炙って一口大に切ったモノなどを併せてとりながら、ひや酒が喉を、胃壁を伝うのを楽しみながら飲み込み、肴で口腔の塩分を補うようにしていると、時間の流れが無理なく「昼の部」から「夜のそれ」に移り変わり、さ、今夜は何処で、本格的に腰据えてやろうかしら? と、アタマの中が無駄に回転し始めない、事もない。
蛇足】
こちらの店、
・完全禁煙
・カウンタで広げて新聞雑誌を読む事厳禁
が、徹底されています。普通の「立ち飲み」ではめずらしいですが、これらがないせいで、実は「他のお客の居住性(居心地)が結果的に良くなって」いる。
これを公共性という。
店名 |
Ajino Fue(Ajino Fue)
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類型 | 無座小酒館、日式小酒館 |
03-3837-5828 |
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可供預訂 |
無法預約 |
地址 |
東京都台東区上野5-27-5 1F・2F |
交通方式 |
JR御徒町駅ガード下の南口より徒歩1分 距离御徒町 20 米 |
營業時間 |
營業時間和假日可能會發生變化,因此請在用餐前諮詢餐廳。 |
預算 |
¥1,000~¥1,999 |
預算(評價匯總) |
¥1,000~¥1,999¥1,000~¥1,999
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付款方式 |
无使用卡 可使用電子錢 (Suica等交通系電子貨幣) |
服務費收費 |
無し |
座位數 |
30 Seats ( 1F:立ち飲み 2F:椅子席 ) |
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個人包廂 |
不可能 |
包場 |
不可能 |
禁煙・吸煙 |
嚴禁吸煙 |
停車場 |
不可能 |
空間、設備 |
有吧檯座位,可以站著喝酒 |
酒水 |
有日本清酒,有燒酒 |
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此時建議 |
許多人推薦的用途。 |
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位置 |
家庭式餐廳 |
網站 |
煮凝りで酒というと、かつて浅草にあった酒の店、松風を思い出す。
地酒だの特定名称酒なんて言葉がはやる前から、日本全国の蔵元から酒、なかんずく純米酒を集め、正一合の徳利で提供。
但し、うんちくは語られず、注文できるのはどの客も、ひとり当たり三合までと決められていた、ある意味スパルタンな店であった。
当時の様子を、いまはなきマボロシのレビュアー「なぢらね」氏(笑 がこのように記している。
「セピア・カラー」というか、なんとなく「煮〆たような」風合いの店内、男性ばかりのお運び衆、カウンターの「お燗番」が寸時も注意を逸らさず管理し続けている銅製ガス仕様の「燗どうこ」がもつ威風堂々の風格、「七号酵母発祥蔵」と、自慢げに書き上げられた「信州真澄」の樽酒が、店内の目立つ場所にドン! と置かれた「たたずまい」 うつむきがちで無口な壮年男子中心の顧客構成(ジャンパー着用率高し)、音を絞った壁掛けのテレビが映し出すのは、「大相撲」か「プロ野球」
......想像いただけたであろうか?
ま、そういう店であったが、酒を注文するごとに、突き出しというかチャームというか、小皿に盛ったちっちゃなつまみが付いてきた。
消しゴムのほどの大きさの「冷やっこ」だったり、キューリの「おしたし(と、江戸弁で言いたくなる)」ひとつまみばかりであったり、「ミニ・おでん」であったりしたのだが、なかに「煮凝り」が出てくることがあり、これに当たると、なんだか得をしたような気になったものである。
醤油で色濃くなった、けっこう結着が強いというか、箸が折れるんじゃないかしら? と思うくらいにむっちりとした煮凝りを少しとり、口に含む。
口腔の熱で「むっちり」がほどけ、強めに味をつけられた旨さを含んだ汁がじんわり......と広がる。
ここに上燗に点けられた、広島あたりの酒、ここでは賀茂泉が定番だったかな? をグィ!
っとやると、魚のうまみ、醤油のしょっぱさ、そして酒のキレが混然となり、じつに具合がいい。
「ああ、この煮凝りだけであと三合ばかり出してくれないかな」
とか、お代わりできる酒に限りがあるのはわかり切っているのに、ないものねだりで悶々としたり
......ってバカだねどうも、当時から。
その「幸福の記憶」があるから、酒場の品書きに「煮凝り」があると、つい注文してしまう。
ところが昨今、減塩志向、健康好みというか、妙にお上品な、色の薄い、ひょろっとした、しかも「あんまり」むっちりしてない、へんに割烹、料理屋もどきなそれに出くわす事が少なくない。
これを味覚の関西化というべきか、グルメブームに乗った本格志向と言うべきなのか、ナンダカワカラナイが、結果として自らが頼んだもので欲求不満を抱え、とはいえどこに文句を言う筋合いでもないという #冷徹な事実 に愕然としてしまう(オオゲサ! )
で、だ。
困ったときにはこちらに寄る。
なにしろ「越後の地酒と別海(道東)の幸いと」を標榜する、われらが吉池が営む「立って飲む」店である。
ここでご案内の顔色の悪い、白樺文学みたいにお上品な煮凝りが出てくる「わけがない」 シラカバビンボー!
かくしてカウンタに向かい、卓上に並ぶたくさんの「つまみ」から、煮凝りを抽出、返す刀で
「つるとも(鶴の友:エチゴ市内野にある樋木酒造謹製のハードボイルド酒)ください! 」
と、叫び、正一合のグラスにナミナミと注いでもらったやつを愛で、そしてカッチンカッチンな煮凝りを箸で「エイヤっ! 」と切り分け、口に放り込むわたくしを、誰が非難することが出来ようか、いや、ない、と古文の定法 #二重否定は強い肯定 で嘯きつつ、ひとりニヤつかない、事もない。
尚、具体的な御菜の詳細は、別掲の写真ないし、写真のコメント欄に当たっていただきたい。