現世（いまのみよ）　もう食へません　傍（そば）の『池の端藪（そば）』　（西山宗因捩り） : Rengyoku an

僕（やつかれ）、元來（もとより）、蕎麥（そば）より饂飩（うんどん）を嗜（この）む。
一度（ひとたび）"饂飩（うんどん）"と名（な）が附（つ）けば、
冷凍物（れいとうもの）であれ、伸（の）びたる蒸（む）し麪（めん）であれ、
讃岐（さぬき）であれ、稻庭（いなには）であれ、何（なん）でもござれ。

とは云へ、
年齢（とし）のせゐか、はたまた、東都生（えどむ）まれの血（ち）が薅（さは）ぐのか、
近來（ちかごろ）俄頃（にはか）に蕎麥（そば）喰（く）ひたくなるも稀（まれ）ならず。
就中（わきても）『いち太』の蕎麥切（そばきり）は衝撃（おどろき）の品（しな）。

かゝる名店（なだかきみせ）のみならず、
『並木（なみき）』や『砂場』などの老舖（しにせ）も好（す）き。
蕎麥切（そばきり）の口味（あぢ）そのものは陳腐（ありきたり）のものなれど、
接客（きやくあしらひ）、居心地（ゐごゝち）など見（み）るべきものあり。

有一日（あるひ）、
上野（うへの）ゝ時辰儀商（とけいや）に修繕（つくろひ）を依頼（たの）み、
周圍（あたり）を逍遙（うろつ）く。
『上野藪』は狹苦（せまくる）しく、足（あし）の嚮（むか）ふは池之端（いけのはた）。

『池の端藪』：
所謂（いはゆる）"藪御三家（やぶごさんけ）"の一（ひとつ）。
去年（いぬるとし）二度三度（ふたゝびみたび）訪（たづ）ぬれど、
堅（かた）く鎧戸（よろひど）下（お）ろして商賣（あきなひ）の氣配（けはひ）なし。

この日（ひ）も定休日（やすみのひ）ならざれど、
鎧戸（よろひど）が下（お）りた儘（まゝ）。
勿駭（おどろなか）れ、鎧戸（よろひど）には「閉店（みせじまひ）」の貼紙（はりがみ）。
嗚呼、八百萬神（おほまいがッ）！

已（や）むことを得（え）ずして、當家（こちら）『蓮玉庵』に、、。
構（かま）へは、赤坂（あかさか）『室町　砂場』に匹敵（ならぶ）。
店内（なか）には、西山宗因（にしやまさういん）が句（く）。
■「や可（=か）て見よ　棒くら磐（=は）せん　蕎麥の花」

躊躇（たゆた）ふことなく、"天蒸籠（てんせいらう）"、
對價（あたひ）一千七百五十圓也（いちせんなゝひやくごじふゑんなり）。
蕎麥切（そばきり）に加（くは）へ、
蝦（えび）、獅子蕃椒（しゝたうがらし）、海苔（のり）の揚物（あぶらあげ）。

揚物（あげもの）が外見（みため）は定食屋（いちぜんめしや）のそれ。
倩（つらつら）蝦（えび）を瞻（み）るに、
その衣（ころも）、"十二單（じふにひとえ）"と見紛（みまが）ひ、
"搔卷布團（かいまきふとん）"かと疑（うたが）はる。

尾（を）の姿容（すがたかたち）を檢分（うかゞ）ひ、
蝦（えび）の口味（あぢ）と食感（はごたへしたざはり）を吟味（あらた）むるに、
活（い）けの鞘卷（さやまき）を髣髴（おもはす）。
とは云へ、豫（あらかじ）め捌（さば）き置（お）き時間（とき）を經（へ）たるそれ。

古來（いにしへよりこのかた）、江戸（えど）では、
菜蔬（あをもの）ゝ揚物（あげもの）を"精進揚（しやうじんあげ）"と號（よびな）す。
"天麩羅（てんぷら）"は魚介（うをかひ）に限定（かぎる）。
大（おほ）いに訝（いぶか）りつゝ、啖之（これをくらふ）。

肝腎要（かんじんかなめ）の"蕎麥切（そばきり）"も陳腐（つまらぬもの）。
蕎麥汁（そばつゆ）また然（しか）り。
嘗（かつ）て玄關脇（げんくわんわき）に在（あ）りし、
"久保田万太郎（くぼたまんたらう）"の句碑（くひ）は今（いま）何處（いづこ）？

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【照相機1】：東京通信工業 索尼（Sony） α7-II　無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡頭1】　：旭光學（あさひくわうがく）微距（Macro）Takumar 4.0/50 @F4.0
【照相機2】：徠卡（Leica）D-LUX (Typ109) 消費型數位照相機（こんでじ）鼠色（ぐれい）
【鏡頭2】　：徠卡（Leica）Vario Summilux 1.7-2.8/10.9-34