徹底的に英国にこだわったパブ
この店がある商店街には最近週一で来て居酒屋で飲んでいるのだが、実は前々からこの店が気になっていた。でもなかなか入るタイミングが見つからない。というか何となく敷居が高く感じていたのだ。
まず入口が分かりにくい。というか2つあるように見えるのだ。どちらかがダミーというか飾りなのか。もし開かない方の扉を開けようとして固定されていたりしたら恥ずかしい思いをする気がする。そんな小市民なオヤジだった。
結局は2のドアはそれぞれ開くようになっていた。
「イギリスのパブは入口が2つあるんですよ」
マスターは私の疑問にこう答えた。階級別に分かれているそうで、庶民用と上流階級用とのこと(説明の意訳)。
そう言えば、私の好きな英国ドラマの一つである『刑事マードックの捜査ファイル』にも飲み屋(パブ)が出てくるが、時々“会員制”のような飲み屋も登場する。飲み屋と言っても高級そうな内装と調度品、ゆったりできるソファーが広い部屋に並べられていて、着飾った紳士淑女がゆったりと飲食を楽しんでいる広い場所だ。トラディショナルなホテルのロビーのようなイメージである。
主人公のマードックは普段は下町のパブでビールを飲んでいるが(このドラマでは昼間の仕事の合間でも酒を飲んでいるシーンが時々出てくる)、事件の捜査のために正装してそういう高級そうな場所に行くこともある。このドラマの中でも人々の階級意識が強く根付いているようなシチュエーションが多々出てくる。これは男女間の関係もそうで基本的に男尊女卑である。時代設定が100年以上前の1890年代(日本では明治時代中期)だからであるが、おそらく現在の英国でも未だにそんな雰囲気が残ってそうな気がする。知らんけど。
「この店は初めてで、今日は3軒目なんですけど」
私は入店早々マスターにそう告げた。こういった状況説明をすれば適切に対応してくれる、店には様々な客が来るので、こう告げておけば店側も助かると思うからだ。(私の思い込みかも知れないが)
その結果として、差し出されたメニューはドリンクのものだけだった。実は軽く食事もしたい、否、もう少し現実的な表現に言い換えれば、どんなフードメニューがあるか知りたい(写真に収めたい)と思ったのだが、結局店を出るまでそのことを告げるタイミングはなかった。
というのもこの店の構造が原因なのだ。
入口が2つあるという話は、おそらくマスターのネタ(フィクション)で、結果的に入口が2つあるのではないかと思う。
他の人のレビュー写真を観ると、数年前までは入口が一つだったのだ。この店は昔ながらの商店街にあり、店舗建屋は2階建の長屋構造になっている。各店舗の間口は基本的には一定でこじんまりとしている。個人商店を営むにはちょうどいいスペースだ(2階部分は住処)。それはイートインスペースが充分には確保できないほどで、商店街にはテイクアウト専門のパン屋とかたこ焼き屋があったりもする。
ところが数年前に、この店舗の向かって左隣の店と合体して、間口が倍になったようなのである。(左隣は過去には花屋→和菓子屋と推移してその和菓子屋が閉業したようだ)
その際に飲食スペースを拡張すると同時にもう一つの入口を作ったようだ。(このあたりは全て推測←次回以降にマスターに確認してみたい)
2つの店舗間にある壁を壊さずに一部を通用口の形で開けて通れるようにしたので、元々の店舗と新設された飲食スペースは事実上分離されている。私はその拡張されたスペースの方のドアを開けて入り、そのままマスターの案内もあってその一角に座ったので、オリジナルの店舗の方に常にいるマスターとはほとんど話が出来なかったというわけ。
別に嫌われたわけでもないと思うのだが、最初にビールを頼んだので、それを一人で静かにゆっくり飲むような客なんだろうと思われたのかも知れない。
今回なぜビールを頼んだのかと言えば、前述の英国ドラマの影響というか、再現をしてみたかったからである。
「英国のドラマを見ていて、泡がほとんどないビールを目一杯入れた寸胴のジョッキで飲むシーンがあるんですけど……」
こんな感じで注文をとりに来たマスターに告げたら、
「それならこのエールがいいですよ」
と、ドリンクメニューに書かれていた長ったらしいビールの名前を言った。
「オールドスペクルドヘンというビールです」
おそらく英国のビールだろう。それをお願いすることにしたが、メニューには2つのサイズから選ぶ形で書かれているが何も聞かれなかった。おそらく私の前振りを聞いて、そのイメージの近づけるには多い方の選択しかないだろうと判断したのかも知れない。
half / 1Pint
ちなみに1Pint(パイント)は568ml(英国基準)で日本の中瓶より多く大瓶より少ない量だ。
まもなく提供されたビールはジョッキではなくグラスに入っていた。どうやら1パイントがちょうど入る専用のグラスのようだ。そういえば以前にも同じ形状のものを他の店で見た記憶がある。
そのグラスには目一杯ビールが注がれていて、確かに泡は少なめだった。イメージしていたジョッキではなかったが、何となく英国風を味わえそうだと思った。
「おつまみがありますがいかがでしょう」
マスター英語で書かれた小さめの袋に入ったものをグラスの横に置いた。そして続けてボソッと言った。
「300円ですけど」
一瞬おまけかと思ったが有料だった。コメダでコーヒーに無料で付いてくる豆のような存在かと思ってしまうのは、名古屋人のせいだろうか。
「これは日本では当店でしか出してないんですよ」
マスターは自慢げに解説した。それが事実かどうかは確かめようがないが、ネットで調べてみたら輸入品であることは確かのようである。ビールに合うスナックということで、日本にも例えばグリコ製の類似した商品はあるが、あくまで英国式を貫いているようだ。
結局はそのスナックをアテに一人でビールをゆっくりと飲んで、会計することにした。その際、こちらにどうぞと言われ、壁に開いた通用口のような部分から隣のスペースに移動して、一旦は精算した。(1,200円、この店は現金のみ)
元々の店舗であったそちらのスペースにはいかにもな派手なカウンターがあって、全体としてこれぞ英国式パブという雰囲気で、さらにカウンターの上にはお菓子のようなものが並べられているガラスケースもあった。
退店しようとしていた私がそのケースを覗いていたら、今度はカウンター内にいたママさんが「上の段がスコーンで下の方に並んでいるのがミンスパイというお菓子です」と解説してくれた。
「やっぱりイギリスのお菓子ですか?」
「そうです」
「私はイギリスのTVドラマが好きなんでこういうのも興味があります」
「私もイギリスのドラマは好きですよ」
話を合わせてくれたのか本当に好きなのかは分からなかったが、次来る時はこっちの方の入口から入って、マードックの話を始めとして英国の話を色々聞きたいと思った。
「じゃあ、そのミンスパイを2個ください。ちなみにお酒にも合いますか?」
「合うと思いますよ。お酒に漬け込んだドライフルーツを使っていますので」
結局は飲兵衛な私は何でもツマミにして飲むんだけど、念のために聞いてみたのだ。
ママに2個分の600円を差し出してケースに入れられたミンスパイを受け取った。
「また来ます」
と言い残して店を後にした。
店には結果的に約30分いることになったが、その間、先客は2名(ハードメーカーに勤めている男性でイメージセンサー関係の専門的な会話をしていた)、後客も2名(外国人っぽい風貌をした女性だが流暢な日本語を話していた)だった。
ごちそうさま。
ーーーーー以下はWikipediaより抜粋引用
【ミンスパイ】
ミンスパイ (英: mince pie) は、ドライフルーツから作った「ミンスミート」を詰めたパイである。
クリスマスに食べる菓子として知られ、径数センチの独特の形で作られることが多い。ミンスミート (mincemeat) とは元来は、ミンス(みじん切り)にした肉、つまりひき肉のことで、ミンチの語源でもある。しかししだいに、ドライフルーツを主体としたものに変化した。
東方の三博士がイエス・キリストの誕生を祝うために捧げた没薬が、ミンスパイの起源と言われる。かつては果実や肉に香辛料と甘みを加えたものをパイ生地やビスケット生地で包んでゆりかごをかたどり、上面部に切り口を入れてイエスを表す小さな像を入れて焼き上げていた。この工程には、ゆりかごの中に神の子を置き、その誕生を祝っていた意味合いがあった。
店名 |
BERMONDSEY CAFE(BERMONDSEY CAFE)
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类型 | 咖啡店、餐饮酒馆 |
预约・查询 |
052-671-8386 |
预约可/不可 |
可预订 |
地址 |
愛知県名古屋市熱田区神宮3-1-8 神宮前商店街 |
交通方式 |
距離热田 176 米 |
营业时间 |
营业时间和节假日可能会发生变化,因此请在参观前与餐厅联系。 |
预算 |
~¥999 ~¥999 |
预算(评价总数) |
¥1,000~¥1,999~¥999
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付款方式 |
无使用卡 无使用电子钱 |
座位数 |
20 Seats |
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个人包厢 |
不可能 |
禁烟・吸烟 |
− |
停车场 |
不可能 |
此时建议 |
许多人推荐的用途。 |
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この日は、名鉄の神宮前駅からすぐのところにある蕎麦屋でランチ(お酒付き)を摂ったあと、この店のある熱田神宮前商店街をブラつきました。その際に“おむすび”のテイクアウト専門店で店主と立ち話をしたりもしましたが、昼呑みの量が今ひとつだったのでもう一軒どこかで呑もうと思っていました。
以前はこの商店街にある居酒屋がランチ営業していて昼呑みもできたのですが、残念ながら少し前に夜のみの営業となってしまい、選択肢が狭まってしまったのです。
ということで、バーとしてはちょっと意外な感じですが昼間も通しで営業しているこの店に入ることにしました。
週末とは言え(週末だから?)、昼下がりの時間帯にはさすがに先客はおらず、マスターが入り口に近いテーブル席に座ってくつろいでいました。入ってきた私の姿を見てすぐに席を立ち、その場所に座れるようにしてくれました。
店のレイアウトは特徴的で、全体的な構造としては商店街の2店舗分を合体したような感じで、2つの店舗の境目には人一人が通れるように通用口が設けられてはいますが、基本的には2つのブロックに分かれています。
歩道からは2つの入り口が見えて、いずれからも入店可能です。向かって右側がカウンターのある狭小なメインブロックで、左から入ると少し広い感じのテーブル席が設られたブロックになります。
前回はこのような構造であることを知らなかったので、左側のドアから入ってテーブル席の一つに座りましたが、おそらく基本的には右のドアから入って、状況に応じてスタッフが座る場所を決めているように思うのです。なので前回の訪問の仕方はイレギュラーだったと思います、知らんけど。
ということで今回はちゃんと右側の(派手な)ドアを開けて中に入ったのです。
狭小な店舗内は間口よりも奥行きがある感じで、左手に厨房を備えたカウンター、右側に4人が座れるテーブル席が2組あります。カウンターには年季の入った木製のハイチェアーがいくつか配置されていますが、椅子としてはおそらく使用されていない様子が伺えます。この日は上に卵パックが置かれていました。
椅子自体も手作り感があって、触ってみたところグラグラしたので、そういう意味でも使用をやめている感じです。本来ならこのようなバーに一人で来た場合はカウンターに座って呑みたいところですが、カウンターの上面もそのようなスペースはほとんどないので、やはりテーブル席に座るしかないのです。
「ランチですか?」
「いえ、食事は済ませてきたので、1杯いただこうかと思って」
「どんなのがいいですか?」
「前回はエールビールを呑んだのですが」
「じゃあ新たに入ったエールビールをお出ししますよ」
「お願いします」
ということでマスターは冷蔵庫から1本の瓶ビールを出して、グラスと共に目の前に置いてくれました。何か変わった感じの瓶ビールです。
『PEDIGREE』 AMBER ALE
ペディグリーと聞くとドッグフードを思い出しますが、もちろんこちらは英国の酒造メーカーのMarston's Breweryが製造販売しているビールのブランドになります。
あまり聞いたことのないメーカーですが、2020年に「カールスバーグ(Carlsberg)」(※)で有名なカールスバーグ・グループとの合弁会社に移行しているので、そういう意味では、日本でも今後よく見ることになるのかも知れません。
(※日本ではサントリーが1986年からカールスバーグブランドの製品をライセンス生産販売している)
今回も前回も結局エールビールを呑んだのですが、実はエールビールは英国で発展したビールなのです。
ーーーーー
【エール(Ale)ビール】
淡色でホップの香味を効かせたペール(Pale)エール、中濃色でホップの香味を抑え麦芽の香りを出した穏やかなマイルド(Mild)エール、これより色の濃いブラウン(Brown)エール、濃厚なエキスポート(Export)エール、ホップの苦味の効いたビター(Bitter)エール(単にビターともいう)、スコットランドの濃色濃厚のスコッチ(Scotch)エール等があります。アルコール分は2.5~5.5%。上面発酵ビール。
(ビール酒造組合▶︎ https://www.brewers.or.jp/tips/type.html より抜粋引用)
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ただ今回飲んだビールのラベルには“AMBER ALE”と記載されています。上記で引用した種類の中にはありません。
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【アンバーエール(Amber Ale)】
明るめの銅色~茶色のアメリカのエールビール。アメリカ品種のホップを使用し、ホップ由来の強めの苦みと香りが特徴。カラメルっぽい香ばしい麦の香りも。
(ビール女子▶︎ https://beergirl.net/beerchara/chara06/ より抜粋引用)
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以上のような検索結果を見るとビール界隈もかなり複雑な事情があるような気がしてきました。日本で売られている海外ブランドのビールでも、(先ほど触れたように)実際には日本国内でライセンス生産されているものも多いようですし。
例えば海外製のビールとして1番に頭に浮かぶであろう「バドワイザー」を例にとっても複雑な歴史があるようです。
日本では当初サントリーがライセンス生産を行っていましたが、1993年にキリンビールに移行したかと思ったら、2019年には自社製造に切り替え、日本で呑めるバドワイザーは現在韓国工場で製造され輸入されているようです。
その辺りの事情を更に深掘りすると下記のようになっているようです。少々長いですが引用してみます。
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18年4月からはビールの定義変更も発表された。ビールとは原材料に占める麦芽構成比が「67%以上」(残りは米やコーンなどの副原料)と定義されていたのを、「50%以上」に緩和され、副原料として果実やハーブの使用も認めるという内容だ。
実は、アメリカで生産されるバドワイザーの麦芽構成比は、“50%台”とされている。しかし、日本では酒税法から、「67%以上」という日本仕様で、30年以上も生産されてきたのだ。麦芽構成比が異なるのに、本家と同じ味わいとなるようサントリーもキリンも、技術力で対応してきた。味わいだけではなく、濾過工程に白樺のチップを使うなど、独自の工夫も重ねていたのである。
しかし、昨年の定義変更により、50%台の仕様であっても、堂々と「ビール」と名乗れるようになったのだ。この影響もあり、ABIはバドワイザーの自社生産に切り替え、バドワイザー本来のレシピでの展開に踏み切った、といえよう。
(PRESIDENT Online▶︎ https://president.jp/articles/-/27860?page=3 より)
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要は日本の酒税法で決められていたビールの定義が変更されたのがきっかけのようです(上記の記事は2019年のもの)。この酒税法は呑兵衛にとってもかなり影響がある税制で、近年になって頻繁に変更が行われています。最近では発泡酒絡みの税率変更などでビール党が右往左往していますが、昭和なオヤジ達には日本酒の区分であった特級、一級、二級という表現が廃止されたのが大ニュースだったわけです。
と、今回もかなり横道に逸れましたが、何れにしても今回も美味しい英国ビールが呑めたと思います。しかも何故かパイナップルを丸ごとカットしたものも一緒に。
「前回、お菓子が置いてあったけど、今回はパイナップルが入っていますね」
ビールを半分ほど呑んだ私は、厨房内の女性スタッフにこう話しかけました。
「今日は別のものを用意してはいるんですけど」
「今回はスイーツではなくこのパイナップルをもらおうかな」
「冷えていないですけどいいですか?」
「はい、お願いします」
ということでしばらくしてカットされたパイナップルが配膳されたのですが、まさか丸ごと1個分が来るとは思っていなかったのです。でも、出てきたからには食べなくてはと思いながら、端っこからフォークで刺して口に運んでいたのですが、意外にも美味しかったので、結局なんなく完食してしまったのです。
たまにはこういうフルーツの爆食い(?)もいいのかも、と思いました。
ちなみに今回もマスターや女性スタッフとは必要最小限の会話しか出来ませんでしたが、そのうち英国系ドラマなどの話が出来たらいいなぁ、と前回同様に思った次第です。常連認定はまだまだ先のようですがっ。
ごちそうさまでした。
蛇足。
無駄に長いレビューを最後まで読む人もほとんどいないとは思いますが、私はレビューを書き始めるまで、書く内容は何も考えていないのです。書いているうちに飲食時の記憶を掘り起こし、さらに思いついた内容を雑雑と書き殴っているだけなのです。書いた後、文字や表現の校正はしますが、全体を見直すことはしません。そんないい加減なレビューなのです。