母校近くの町喫茶でナポリタン　 : Meikyoku Kohi Mugi

所用のため母校に近い地下鉄丸ノ内線本郷三丁目駅まで来た。

所用を終え「食事を」と思って本郷通りを歩くと学生が利用しやすいようなラーメ
ン屋などの食堂が並んでいる。
「たまに喫茶店でスパゲッティと珈琲もいいな」と思い、入ったことのある『喫茶
店　麦』に足を向けた。

店は地下鉄駅に近いビルの地階にある。
多くの店が路上に違法看板を出して通行の邪魔になっているが、『喫茶店　麦』は
ビル敷地内に恥じらうように置かれている。
このように他人に配慮した店名の看板の置き方は極めて好ましい。
この配慮から経営者が豊かな常識を持っている人格者ということがが伺える。

地下への階段は踊り場あたりが麦の入口になり、入って左にUターンするように階
下に続いていて、強い煙草の匂いがあった。

麦のフロアに入ると階段を中心に左右２室に分かれる。
前回は右の客室に入ったが、きょうは左の部屋に入った。

階段を下りた右に調理場とレジがあり、左に便所がある。

右の部屋は硬めの椅子でテーブルも書き物に適していたと記憶していたが、左の部
屋は柔らかい椅子だ。

奥の席に座ったころを見計らって高齢の女性が水と灰皿を運んできた。
この店はご夫婦で営業しているようで、調理場にはその女性のご亭主と思しき方と
若い人（アルバイト？）がいた。

注文すべきものは路上のビル入り口にあった献立看板で決めているが、卓上の献立
を見るのも注文前の儀式だ。
店内に流れるクラッシック曲（なんという曲だか知らぬ）を聞き、数分したころ先
ほどの女性が注文取りにきたので「珈琲とナポリタン。珈琲は食後に」と告げた。

この部屋の先客は、１人客が３人、３人の１組で、いずれも紫煙を上げている。
３人は読書したり喫煙したりしているが、３人組は昼休みの中年の会社員のようで
仕事の打ち合わせをしている。

この店は全面喫煙可なのだ。
吾輩も10年余前まで喫煙していたので、店に入ったときの強烈な煙草の匂いにすぐ
に慣れて気にならなくなった。

手持ちの小説を開いて数ページも読まないうちにスパゲッティが運ばれてきた。
そんなに早く茹で上がるはずがない。
茹で置きなのかな。

ナポリタン炒められたケチャップの香りが鼻腔をくすぐる。
なぜか懐かしい香りだ。
子どものころ母がトマトケチャップで作ってくれたスパゲッティの香りだ。

トマトケチャップ色のスパゲッティ
こいつぁ　いいね。
スパゲッティも本来のスパゲッティの色だ（←偏見です）

スパゲッティの中に玉葱が見えるがウィンナーソーセージは見当たらない。
サラダドレッシングのかかったレタスが添えられている。

自宅でもレタスをサラダ、スープ、炒飯、スパゲッティなどで使っているのでレタ
スの大体の分量がわかるが、添えられたレタスの量は20g程度、多くても30gかな。
この程度なら愛嬌のようなレタスは意味が無いし要らないね。

これで赤い蛸ウィンナーと小さなハンバーグがあって、紙製の日の丸の小旗を立て
れば『大人様ランチ』の完成だ。
いや、そうであれば炒飯の50gも必要になるかな。

スパゲッティを確と観察したのち、合掌して「いっただっきま～す」

フォークの先端は紙で巻かれている。
左手で紙の端を持ち、右手でフォークの尾部をクルクル回して紙から出した。

柔らかい太麺のスパゲッティを食べるとケチャップ味が唇に触れた。
３口ほど食べてからタバスコをかけて大人のスパゲッティにし、スパゲッティとい
うよりタバスコの味を楽しんだ。
そして、粉チーズを振り掛けて冠雪のスパ富士山を作り、チーズをよく混ぜて食べ
た。

するとフォークの先端になにやら肉片が刺さった。
豚肉片と思うが、肉片の出没はこの１回１枚だけだった。

美味しく食べ終えたときに珈琲が供された。
スパゲッティを食べ終えて水も含まずに珈琲を一口。
スパゲティと混ざった珈琲も美味しいものだ。
普段は使わないミルクを投入したが、スパゲッティの味が口中に残っているためか、
ミルクの効果はなかった。

ゴールドブレンドが美味しいと思っている吾輩にはこの珈琲が何かは分からない。
でも、美味しいことには間違いない。


食事を終えても去りがたく、それから30分、小説の区切りのいい箇所まで読んだ。

さて支払だが、珈琲300円、スパゲッティ600円で計900円なのに750円だった。
「？」と思ったら「スパゲッティのお客様は珈琲が150円です」とのこと。
そして、「この店はいつごろ開店か」と問うと「東京オリンピックの年から」との
回答。
そりゃ歴とした町喫茶だ。

帰りがけに戸外の献立看板にトースト、スパゲッティ、サンドウィッチの時はミル
ク付の珈琲、紅茶150円と書かれていた。

次の機会にはサンドウィッチを食べようかな。


※　『母校』　　勘違いされませぬように……。

(26年02月 利用)

本郷三丁目駅を出て、本郷通りに向かう途中に喫茶店の入口があった。
入口から階段を下りた地下に、静かに店がありました。そこには、40有余年前の空間が
ありました。

店内は、階段を中心に左右に分かれていて、左手の部屋には白いカバーの椅子が見え、
木の椅子とテーブルの右手の部屋に入りました。
階段の下あたりが厨房になっています。

店内の壁際などには、絵、分厚い本、骨董らしき壺や皿などが飾られていて、今は見る
こともないレコード盤もありました。

クラッシック音楽が流れている。
音量は大きくもなく小さくもなく、音楽を静かに聴かせ、客同士の会話も弾ませるという、
微妙に適当な音量です。

注文は珈琲。
この場合、「コーヒー」と書くより「珈琲」がふさわしい。
珈琲の値段は、なんと250円。この店の向かいや近所には200円、100円のチェーン・コー
ヒー店があるにもかかわらず、一見贅沢な間取りと雰囲気のこの店の250円は格安です。

やや大きめの珈琲茶碗の珈琲は、香りよく口に広がる深みのある味。
これが珈琲。チェーン・コーヒー店のそれとは段違いです。

右手の部屋の客の入りは、平日の午後でしたが概ね４割。
半分が二人連れで半分が一人客。それぞれ静かに談笑したり、読書、パソコンをするなど
で、たまたまでしょうが音楽を鑑賞している姿の人は居なかった。
もっとも、私もパソコン族でしたが………。
結局60分も居ましたが、珈琲１杯の私にも居心地良い所でした。

全体が喫煙可のため私にはキツイ感じでしたが、懐かしい空間に触れていると、煙草の煙
にも懐かしさを思い出しました。
若い頃の喫茶店というと、名曲喫茶であれ、純喫茶であれ、喫茶店に煙草はつきものでし
たね。

店内の雰囲気、ふくよかな珈琲の味は、私の記憶を一挙に40年以上の昔に戻したようです。

周辺のチェーン・コーヒー店と比較した場合、250円でも利用する価値のある店です。