越前/桜とheightとぼく : Echizen

月末、集金日。
神田と新小岩の2件であったので、夜の為の体力温存を図り、会社をクルマで発進して先ずは神田を終えて、蔵前橋通りを東へと疾走。錦糸町を越えて次に賑やかとなる亀戸天神を、今日のご飯どころを物色しながらパーシャルスロットルで通過した

―― けっこうおそば屋が多いよなぁ、このあたり ……

<R4.9.30>

「越前」

2件目の集金を終えた帰り道、無事にパーキングもみつけ、ご飯処を求めて歩き始める。
と、早速そば屋を見つけ、しかしそこはキープで先に進もうとしたのだけれど、屋号が大岡越前に似ていることに気付いてしまい、これはpath出来ない !　と入店を決める。
南町奉行所時代、家の間口の広さに依って累進課税されていたときの名残りで、奥へ奥へと延びる店内。どこへでもとのことで、謙虚に入り口付近のテーブルに腰を据えて加藤剛を探してみるが、見える範囲でその姿はなかった

“桜えびかき揚丼セット” 880也。

まずサラダが出てきたことにちょっと驚かされる。
そして素のせいろう1枚750円と見えており、ちび天丼との揃いで880円はお得だなと思った一方、これでは大した料理は出てこないだろうと高を括っていたところ !

―― げげっ !　手打ちがheight高く盛られて出てきちゃったよ !

これは意外 !　と心のスラック(弛み)を張り直し、ちゃんとチープな割り箸［注］をsplitし、精神とともに正眼に構え直して間髪を容れずに頂点を突いていった !
肉薄の猪口に、ナロウで豊富な粒状感を持つそばの尾がまるで別の生き物のように吸い込まれてゆく。物心ついたころから皮膚に刻み込まれたこの空中操作の技法を、わたしは別段意識して繰り出しているわけではない。
ただひたすら自動的に無重力の中でそばが運動している光景を、不思議そうに見つめていればそれで良かった

注) ちゃんとしたチープな割り箸：
割り箸というtoolは奇を衒わず、チープであればあるほどに、機能的にはちゃんとしたものである、という意

最初から気になっているのは、ところどころにオレンヂ色に染まった部分を持つおそば。
その部分を食べてみると、山葵とやっているからはっきりとは分からないのだけれど、若干辛みを帯びているような気がするが、どんな変りそばなのだろう ?　それとも打ったおそばを置いた場所にとんがらしなどが飛散していた為に、それが色移りしてしまっただけであろうか(笑)。

こないだ“生”桜えびというのをやったがやはり桜えびき“干し” !。
桜えびの香り豊かだが対して凄みのない(こらっ !)かき揚げ丼のどんつゆの甘辛さも適切で、単純に、この揃いでのこの価格はお得だと、十分に納得出来るものであった

そして加藤剛はまだ顕れず。
もしかしたら丹波哲郎に逮捕されてしまったのだろうか ?　そしてもう音楽の中でしか父親に逢えなくなってしまったのだろうか ?
そんな中で、花番のお母さんのNIKEの淡いピンクのシューズだけが、もう神々しいばかりに若く

「なにを今日は求めて生きた」

淡いたそがれが町をやさしく閉ざすその前に、そのことだけを自分に問い直しつつ隅田川を渡れば、そこはもうぼくの雷門