【1441】古民家マニアの蕎麦職人が待ち受ける隠れ家レストラン : Kazeto Sora

3,174文字★

2014年7月19日に閉店した「そば処 遊（新宿区西落合 3.53/10件）」で14年間。
現在は小岩の古民家で木・金・土のみ「カゼトソラ」を営む蕎麦職人の大森大和氏。
『パスタマシンで麺道楽』などの著書も出版しています。

茨城県出身という店主の大森大和氏は自称変人で古民家が大好き。
宮大工によって建てられた築60年を超える小岩の古民家を飲食店にリノベーション。
奥さま、中学生の息子さんとの、家族経営で切り盛りしています（トイレは意外と洋式）。

そして無農薬、無肥料、不耕起栽培、自家栽培、オーガニックといった、
自然に近い形で出来上がった作物や天然の食材を好んで扱うポリシー。
店主本人の実体験として身体が健康になって薄味嗜好になったのだそう。
（だからといって出てくる料理は必ずしも薄味ではありませんのでご安心を。）

店内は座敷に2卓、掘りごたつ式の座敷に2卓、かなり広いので最大34名までの貸し切りも可能。
看板も無く住宅街と同化している古民家レストランなので迷子になりやすいです。
食べログの地図は正しいので、何とか探してみてください。

ビール キリンハートランド 中瓶（500円）
生みかんサワー（700円）和歌山県有田産有機栽培みかんをお店で絞って専用の冷凍庫で保存
生みかんハイ（600円）サワーが炭酸入りでハイが炭酸無し
玉櫻 純米生原酒 近畿33号（1合 700円）
悦凱陣 山廃純生原 雄町精白68％（1合 700円）

天然なめこ鍋とデザート盛り合わせ付きのコース（おひとり様 5,500円）
1.季節の有機野菜の盛り合わせ10種類
2.天然なめこ（秋田産と山形産）鍋
3.小鉢7種類
4.自家製干物4種類
5.じゃこのごま油サラダ
6.自然卵の玉子焼き
7.十割蕎麦
8.デザート盛り合わせ

食べた料理の寸評は以下の通り、【】内は個別の採点、表示価格は内税です

【4.0】季節の有機野菜の盛り合わせ10種類

自家製ザワークラウト、海老醤キャベツ巻き、干し椎茸ニンニク味噌絡め、
キタアカリ（ジャガイモの品種）ローズマリーポテト、獅子唐おかか炒め、
焼き大根カマスソース、焼きズッキーニ煮干しトマトソース、
キタアカリ自家製マヨネーズのポテトサラダ、塩らっきょう、
干しコゴミと干し紅花菜の煮物、計10種類の野菜料理が少量他種でズラリと並びます。

ザワークラウトには白菜も入れて酸っぱくしてあるようで、例えれば白菜の古漬けのような味わい。
一方で甘みの強さが目立ったのが2年間も熟成させたというキタアカリ。
ポテトサラダの自家製マヨネーズは砂糖を少なくしているそうですが、
それでも玉子サラダのような甘みと滑らかさを感じました。
ローズマリーポテトに至っては、もうサツマイモかと思うレベルの甘み。

野菜中心の料理ですがベジタリアン料理ではなく味付けに魚介を使います。
焼き大根のカマスソースは魚介の旨味と塩味が強烈で何とも美味しい。
焼きズッキーニの煮干しトマトソースも滑らかクリーミーでレベル高いです。

キャベツの中の海老醤（蝦醤、シャージャン）も海老由来の旨味が鮮烈。
そして本日の白眉とも思った干し椎茸。
こちらは魚介の旨味こそ加わっていないようですが椎茸とニンニクの旨味だけで十分。
揚げているのか干し椎茸にパリッとした食感が加わっていて妙味を感じます。
野菜を中心にここまで楽しませてくれる和食店は他になかなか無いかも知れません。

【3.5】天然なめこ（秋田産と山形産）鍋

同店の基本コースはデザート無し3,500円、デザート付き4,000円なのですが、
今の時期はプラス1,500円で天然なめこ鍋を楽しめるとのことでお願いしました。
5月はじめから6月ぐらいには山菜料理も提供予定。
なおキノコは店主が好きな天然なめこだけの取り扱いとなるようです。

大きい天然ナメコが秋田産、小さい天然ナメコが山形産、肘折温泉のあたり。
店主がお手本として鍋で軽くしゃぶしゃぶ。
軽く塩を振ってシンプルに味わうのですが、天然ナメコの素材としての美味しさがよく分かります。
味に飽きたらポン酢でも楽しめます。

ネット通販でも100g500円ぐらいの高級品となる天然ナメコ。
美味しいのは間違いないのですが、産地で食べる採れ立てキノコに比べると感動的な美味しさまでは至らず。
そこまでボリュームは無く2人前3,000円なのでコストパフォーマンスは良くないです。

【3.6】小鉢7種類

いつもはお刺身を出すようですが本日は代わりに、赤酢の酢飯のいくらご飯、茶豆の浸し豆、
久米島天然モズクの酢の物、銀杏焼き、高菜の胡麻和え、生姜と秋刀魚の佃煮、
ナスとズッキーニの焼き浸し、計7種類の小鉢が少量他種でズラリと並びます。

高級鮨店が扱うようなサロマ湖産のイクラと比べてはいけませんが、
5,500円（天然ナメコやデザートが無ければ3,500円）のコースでイクラは嬉しいです。
胡麻和えは高菜の苦味が目立ち、一般的なほうれん草の胡麻和えとは一線を画します。
味が強いので日本酒が欲しくなりますが、生姜と秋刀魚の佃煮なども間違いの無い美味しさ。

その中で意外なヒットだったのが「茶豆の浸し豆」。
シャキシャキとした食感を残す茶豆が何とも美味しい、単品評価3.9ぐらい。
豆を美味しく感じるのはインド料理のダルぐらいかと思っていましたが和食も侮れません。

【3.7】自家製干物4種類

秋刀魚の味醂干し、メカジキの血合いの麹南蛮干し、スルメイカとイカワタの計4種類。
イカとワタは一夜干しどころか3時間干し。
ネットリとした食感を残す濃厚なイカワタが堪りません。
店主は薄味嗜好を自称していましたが、料理は濃い味が多いので日本酒を飲めると満足度上がります。

【3.2】じゃこのごま油サラダ

玉締めしぼりの胡麻油を使ったじゃこサラダ。
味付けの酢醤油には国産無農薬の醤油を使用とのこと。
濃厚な干物の後の口直しに良いかも知れません。

【3.3】自然卵の玉子焼き

甘みはなく出汁巻きタイプの玉子焼き。
岡山の牧場が副業で養鶏している良い卵が手に入るらしいです。
卵は本業ではなく副業のほうが良いとは店主のお言葉。

【3.6】十割蕎麦

蕎麦粉は雪室で2年間熟成させたものを使用。
つなぎ無しの十割蕎麦で、キリッとしたツユ、南アフリカの海塩、薬味に山葵と白髪葱。
蕎麦粉の甘みがしっかり出ているので塩で食べても美味しいです。

つなぎ無しの十割蕎麦なので、二八に比べるとノツノツした食感をどうしても感じますが、
前述の通り蕎麦粉の甘みしっかり、旨味や香りも楽しめて美味しいお蕎麦。
賞味期限30秒とは店主のお言葉。
蕎麦湯はサラサラとしたシンプルなタイプでした。

【4.2】デザート盛り合わせ

バスク地方のチーズケーキ、オーガニックラズベリーのアイス、
プレーンショートブレッド、黒胡椒とチーズのショートブレッドの計4種類と紅茶。

スイーツは奥さま担当とのことですが、チーズケーキとアイスクリームが超絶な逸品。
バスク地方（フランスとスペインの国境あたり）のチーズケーキは、
ネットリ濃厚でチーズ感しっかり、食べログ4.00の洋菓子専門店顔負けの美味しさ。

ラズベリーアイスクリームも変な甘み無く、果実感とクリーミーな濃厚さに唸りました。
前述の通り岡山の牧場が副業で養鶏しているという優良な自然卵を使用。
濃厚でありながら自然な甘みという理想的なスイーツ。
筆者が濃厚嗜好なこともあって、店主の料理より奥さまのスイーツのほうが点数が高いという事態に。
ショートブレッドはテイクアウト購入も可能とのことでした。