賄い飯の頂点
東京で、いや日本でもトップクラスに予約の取りづらい「サエキ飯店」。2019年オープンと若いお店なのですが、既に王者の風格すら滲み出てきました。目黒駅から恵比寿方面へ10分ほど歩いた住宅街にあります。
相変わらず清潔な厨房。豪奢な内装というわけでは決してありませんが、ピカピカと輝くキッチンからは旨い料理の予感が満ちています。この日も佐伯悠太郎シェフは10名を超えるゲストを相手に、目にもとまらぬ速さのワンオペで淡々と仕事をこなしていきます。
乾杯は香港のクラフトビール。その後はワインをボトルでポンポン抜いていくのですが、いずれも1本5~8千円ほどなので気兼ねなく酔っぱらえます。
さっそくバババと揚げ物に取り組みます。オランダナスに豚の腸、揚げ大根餅。豚の腸と聞くとギョっとしますが、まさに天然のソーセージであり、ドロリとした独特の脂身が酒を呼びます。
揚げ大根餅も絶品。外皮はカリっと、中身はトロトロの大根スープのようなニュアンス。
カマスの塩蒸し。素材を活かす、どころか素材そのままですが、淡泊な肉に仄かな塩気がベストマッチ。途中で発酵風味のあるタレ(?)で味変して二度美味しい。
上湯スープ。品の良い旨味に牛肉の存在感、パクチーのアクセント。素朴と言えば素朴ですが、素人には決して真似できない深遠な味わいです。
スペアリブに万願寺唐辛子。清澄なスープから一転してジャンクな味わいであり、ウスターソースを感じさせる独特の甘味が郷愁を誘います。肉厚でピリっとした万願寺唐辛子も肉の脂に旨く寄り添う。
中華風の茶碗蒸し。具材はピータンで、全体的に攻めた調味ですが不思議と優しい味わいです。途中でライスをぶち込むのですが、そのライスが実に香り高く極上の賄いメシといった風情でした。
ヘビナスとシカクマメの炒め物。冒頭のオランダナスとはまた違った食感で、シンプルな調理および調味なのに実にハンサムな味わいです。
お肉料理は鴨。丸々1羽をジャージャー油をぶっかけつつ、どでかい包丁でバッツンバッツンぶった切るのが大迫力。アタックはカリっとした歯ざわりで、徐々に滲み出るジューシーな旨味。筋肉質なのに脂がのっている。脂が旨い。美味しさに取り殺されてしまいそうです。あまりに旨いので、手を使ってギリギリまでチューチューしました。
〆のお食事は少し汁気を残したビーフンにおじや。やはり米の香りが良く、素朴ながら内臓に濃いものが沁み渡る美味しさです。
バジル(だっけ?)風味のアイスでスカっとフィニッシュ。ごちそうさまでした!
この日は気合を入れて、ひとりあたりビール数杯にワイン1本とかなり飲んだのですが、それでも支払金額はひとり2万円を余裕で切りました。実に尊い費用対効果です。アワビやフカヒレなどの高級食材に頼らないのがいいですね。究極の普通。賄い飯の頂点。心地よい暴力性。美味なる兇器。何度か通っているのに飽きさせない多様性。こういうお店が一番だ。
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ニアサーだろうが余裕
2019年に開業して瞬く間に予約困難となった「サエキ飯店」。目黒駅から恵比寿方面へ10分ほど歩いた住宅街にあります。コロナ禍で営業時間は短くなり、予約の難しさは増すばかりなのですが、私は再びお声がけ頂くことができ、数カ月ぶりにお邪魔します。
カウンター6~7席にテーブルが1卓と小さなお店。シンプルな誂えながらキッチンはピカピカという、ここは必ず旨いぞとゴーストが囁く雰囲気です。
佐伯悠太郎シェフは聘珍樓など中華料理の名店で腕を磨いたのち、日本と香港を行ったり来たり。広東省21市すべてのエリアを回ったり、現地で農業に従事したり鶏の卸業者で働いたりジョージアまでワインを学びに行ったりとフットワークめちゃ軽です。
まずはビールをお願いすると香港の「LionRockBrewery」がデンデンデンと並びます。「東京最高のレストラン2020」でも話題にされていましたが、複数種のビールを客の好みを忖度せずに雰囲気で全て決める鋭さが心地よい。
ビールのアテにミミガー。私が一年のうちに沖縄で過ごす期間は中々のものですが、こんなに整ったミミガーを食べるのは初めてです。裏を支えるトリッパの煮込みは見た目以上に深みがあって、永遠に咀嚼し続けてしまう奥行きがあります。
骨付きの鶏肉。さっきまで吊るされていた丸鶏をバツンバツンと骨ごとぶった切って頂きます。調味は塩味だけなのでしょうが、なんとも複雑な鶏の旨味がしみじみ旨いひと皿。これぞ広東料理。
タケノコと豚肉をザザザと炒めます。和食で食べる、まさに素材といったタケノコも良いですが、私はやはりしっかりとした調理に立脚した美味しさを好みます。豚肉のコクがタケノコの素朴な風味によく合う。
スープはパパイヤ、ピーナッツ、鶏や豚のエキス。天下一品の「こってり」を突き詰めたような味わいであり、良い意味での脂臭さをベースに品の良い旨味が口腔内に広がります。
おこわが詰まった手羽先。高温で急速に揚げられており外皮の香ばしさといったらない。続くおこわのモフモフ感もアジア人であれば堪えられない美味しさです。
レタスです。ただのレタスだけなのですが謎に美味しい。こういう料理は欧米圏には中々ない。火の通りのスピード感やズバっとした調味によるものなのでしょうが、マジでただのレタスなのに妙に食わせるレタスです。
チャイロマルハタ。沖縄など温かい地方でお目にかかることの多い高級魚。こちらもガガガと揚げてビュビュビュと味付けしただけのシンプルな料理なのですが、勢いというか鋭さというか、とにかく迷いのない味わいです。酒のお供に最適。
麻婆豆腐、ではなく、それほど辛くはないスパイスを多用したカレーに近い料理。おそらく初めて食べる味わいなのですが、どこか郷愁を誘う風味であり、後を引く美味しさです。ゴハンはロングライスで実に香り高く、カレー(?)と合わせて食べて口の中で完成する味覚。
〆のそばは坦々スープか上湯スープかを選択できるのですが、迷わず両方お願いしました。こちらは担々麺。ゴマだらけでもなく山椒だらけでもなく、やや酸味を感じる気品あふれる味覚。パクチーのアクセントがとてもマッチします。
こちらは上湯スープ。澄んだ上品な味わいですが、存在感に満ちた味わいです。序盤のパパイヤとピーナッツのスープにせよ、当店の汁モノは本当に美味しい。「明道町中国菜一星(いいしん)」のように、スピンオフしてラーメン屋も開いて欲しいところです。
あまおうのアイスクリームで〆てごちそうさまでした。
クラフトビールにワインを1本ふたりで分けて、お会計はひとりあたり1.5万円弱。今夜も見事な費用対効果です。最近の中華料理は飲んで食べて1万円を大きく切る安旨店と、バカみたいに高い超高級店とに二極化が進んでいますが、当店はその隙間を埋める独特のポジション。乙にすました近付き難いさはないもののバリバリに旨いという、ちょうど良い関係。こういうお店がコロナだろうがニアサーだろうが余裕で生き延びるのだろうと思いました。
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切れ味抜群
2019年に開業して瞬く間に予約困難となった「サエキ飯店」。目黒駅から恵比寿方面へ10分ほど歩いた住宅街にあります。
カウンター6~7席にテーブルが1卓と小さなお店。小綺麗なラーメン屋のようにカジュアルな雰囲気であり、まさにサエキさんち、という印象。
佐伯悠太郎シェフは聘珍樓など中華料理の名店で腕を磨いたのち、日本と香港を行ったり来たり。広東省21市すべてのエリアを回ったり、現地で農業に従事したり鶏の卸業者で働いたりジョージアまでワインを学びに行ったりとフットワークめちゃ軽です。
まずは香港のクラフトビールで乾杯。どこ産だとかは関係なく、純粋にクオリティの高いビールでとても美味しい。このあとワインをボトルでお願いしたのですが、いずれも1本5~8千円ほどのレンジに収まり値付けも良心的です。ジョージアワインだけでなく、「自分が美味しいと思ったものは何でも置く」というスタイルです。
まずは揚げたトリッパ。いきなり度肝を抜く旨さ。フレッシュなトマトも見事な清涼感を湛えており、これまでの人生で食べたハチノス料理としてダントツに一番美味しかった。
牡蠣の茶碗蒸し。小粒な牡蠣が山ほど入っており思わず恵比寿顔。ギュウギュウに旨味が詰まった牡蠣であり、敷かれた茶碗蒸しと併せて食べて、改めて恵比寿顔。
生のイサキもべらぼうに旨い。日本料理とはまた違った豪快なカットであり、ムシャムシャとした食感が素晴らしい。味付けもバチっとわかりやすく直感的な一皿。
カブを用いた大根餅ふうのお料理。ガガっと揚げて表面が香ばしく、中はトロトロとウットリする舌ざわり。揚げものなのに透明感がある。黄ニラやモヤシのシャキシャキとした食感との対比も見事です。
こちらはハタを揚げたもの。骨や頭がそのままであり、その間に潜んだゼラチン質がナイスです。やはり揚げものであるにも関わらずサッパリとした食後感であり、店主は天ぷら職人としても大成することであろう。
羊肉はガッチリとした食感があり、咀嚼のたびに旨さが滲み出てきます。スパイスの用い方も絶妙であり、もうひと口もうひと口と後を引く美味しさ。
豚肉と白菜のお鍋。白菜は発酵させたものなのか、鍋全体を取りまとめるシャキっとした酸味がクセになる。何と思いきりの良い調味なのでしょう。最後の1滴まで余すところなく頂きました。
チャーハンもお見事。パラパラサクサクと小気味の良い食感であり程よい軽やかさ。秒で茶碗をカラにしてしまいました。
麺は「上湯麺」と「担々麺」の2種があり、両方お願いして半分こ。前者が特に印象的。見た目は素朴なかけそばなのですが、何とも言えない奥深さを湛えた味わいであり、なるほどこの麺とスープであれば具材はシンプルで充分と思わせる凄味がありました。
〆のアイスクリームも濃厚なのですがサクサクと食べきれてしまう勢いがあり、やはり瞬で皿が空いてしまいました。
欲望の赴くまま飲み食いしたにも関わらずお会計はひとりあたり2万円もしませんでした最高か。純粋な広東料理・香港料理とは異なり、程よい暴力を感じるサエキ料理。何を食べても「ああ、これは彼の料理だ」と思わせる印象的なお皿の数々。
また、十人前後の客を相手にしているのにも関わらず、恐るべきテンポの良さであり、ジャジャっと鍋を振っているかと思えばガガガと皿を洗ったりと、まるで映画を速回しで観ているかのような、驚くべきスピード感も見どころです。
商売っ気たっぷりの飼いならされた雇われシェフとは対極に位置する芸風であり、感覚的に鋭い。切れ味抜群のスーパーマン。思わずアニキと呼びたくなるクールな料理人であり、かつ、最高の中華料理店でした。
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Restaurant name |
Saeki Hanten
|
---|---|
Categories | Chinese |
Phone number (for reservation and inquiry) |
03-6303-4735 |
Reservation Availability |
Reservations available |
Address |
東京都目黒区三田2-10-30 荒井ビル 1F |
Transportation |
651 meters from Meguro. |
Opening hours |
Business hours and holidays are subject to change, so please check with the restaurant before visiting. |
Budget |
¥15,000~¥19,999 |
Budget(Aggregate of reviews) |
¥15,000~¥19,999
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Method of payment |
Credit Cards Accepted (VISA) Electronic money Not Accepted QR code payment Not Accepted |
Private dining rooms |
not allowed |
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Private use |
OK |
Non-smoking/smoking |
No smoking at all tables |
Parking lot |
not allowed |
Space/facilities |
Counter |
Drink |
Wine,Particular about wine |
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Food |
Particular about fish |
Occasion |
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Remarks |
カード払いの場合は別途手数料 |
2019年に開業して瞬く間に予約困難となった「サエキ飯店」。目黒駅から恵比寿方面へ10分ほど歩いた住宅街にあります。私の一番好きな中華料理店であり、中華料理に関しては当店さえあればもう他は別にいいかなと思うほど、悟りの境地に達してきました。
相変わらずピカピカのキッチン。厨房が片付いている店は大抵美味しい。10人を超えるゲストをワンオペで捌きつつ、この清潔度を保つのは並大抵の仕事量ではありません。
いつも通り香港のクラフトビールで乾杯。このあと白ワインを1本に赤ワインを1本頂き、つまり散々飲みました。私は和食や中国料理にワインを合わせるのをあまり好まないのですが、当店の料理には不思議とフィットします。
ゲストが揃うとバババと調味を開始するシェフ。当店はこのライブ感が堪らないですね。ホテル系の中華はバリ高いくせに前菜は作り置きということが多いので、やはり当店は素晴らしい店なのだ。シャッキリとしたレンコンに複雑味のある干し肉。酒が進むツマミです。
揚げたての春巻き。まさに揚げたてで発火しそうなほどに熱い。中にはキノコがたっぷりで、そのエキスに満ちており実にジューシー。ハフハフごっくん美味しいよう。
カブと白菜のスープ。シンプルな食材からは考えられないほど複雑な味覚であり、筆舌に尽くしがたい旨さです。おや、牡蠣も入っているぞ。でも牡蠣のエキスだけでこんなに味覚が豊かになるのかなあ。
アズキハタ。私にとってあまり馴染みの無いお魚ですが、むっちりとした弾力がありつつ実にジューシー。シャキシャキとしたネギとも良く合い、ソース(?)についても曖昧なところが全くありません。
ゴハンもお出し頂けるのですが、いわゆるコシヒカリ的ベクトルとは全く異なり、程よく水分が抜けておりサクサクとした食感。香りも高く示唆的で、先のソースを優しく受け止めます。
広東白菜のニンニク炒め。ごくごくシンプルな料理ですが、シャッキリと心地よい仕上がりで心地よい箸休めです。
ハムユイと干しエビを用いた豆腐料理。ハムユイ(咸魚)とは塩漬けにして発酵させた魚のことで、アンチョビ的な塩気と旨味が楽しめるブツです。なんともややこしく込み入った味覚であり病的な快感。日本人が普通に日本で暮らしていたら絶対に楽しむことができない味覚でしょう。
豚の三枚肉をバーガー的に頂きます。コッテリとした豚の脂に良く行き届いた味付け。一緒に挟むお野菜もたっぷりで、手づかみでガブリむしゃむしゃと楽しいひと品です。
熊野地鶏をぶった切り。入店時に天井から吊るされていた丸鶏を、中華鍋の中でジャージャーと油をぶっかけコンガリと仕上げます。全く奇をてらわない真っ直ぐな味覚です。
漬物チャーハン。スープも豆腐料理もそうですが、やはり複雑で奥深い味わいです。こんなに素朴な料理なのにどうしてこんなにも旨いのだろうか。
もう少しお腹に余裕があったので、担々麺も頂きました。コリオリの力が作用しているのか旨そうなスープが程よく渦巻いており、そして実際に旨いです。先のチャーハンと担々麺の専門店としてスピンオフしても大成功間違いなしでしょう。
カボチャのココナッツプリンに紹興酒風味のアイスクリームでフィニッシュ。ごちそうさまでした。
以上を食べ、かなり飲んでお会計はひとりあたり2万円。終始チャクラが開きっぱなしであり、それでいて全てがさり気なく自然。客層も上手くコントロールされておりまさに紳士淑女が集う店。好き嫌いの枠におさまらない、私にとって必要なお店です。
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