シンプルでストイックな引き算の極致、一貫した水墨画の世界
余計なものをギリギリまでそぎ落としたこの店の料理は、おいしい料理とはどういうものか、料理はどうあるべきなのかを考えたり、他の店の料理を評価したりする際の、1つの座標軸になる。今回も、改めていろいろ考えさせられた。
【料理、味】
料理は、6千円、1万円、1万5千円(消費税10%+サービス料5%込みで各6,930円、11,550円、17,325円)の3つのコースがあり、お店の説明では、品数はほぼ変わらないとのことだったが、6千円は1万円より2~3品少なく、1万5千円は1品多い感じ。共通の品が多いが、一部、食材のレベルが異なる。
今回は、1万5千円(税サ込み17,325円)のコースを選択。※印は、11,000円のコースにないメニュー。
1.天然のマイタケのスープ (先付)
マイタケは、富山市の山間地の大長谷産。味わいは淡く、香りがしてスッと消えるスープ。
2.毛ガニ(魚津)
しっとりして繊細なカニの身に、酸味のジュレと大葉の香りを合わせた。
3.アワビ (富山) ※(11,000円コースにはつかない)
アワビは、強くボコボコと2時間半沸かして炊いた。低温で蒸すなどするのが定石だが、試行錯誤した結果、強く炊くと、身がしっとり柔らかくなるとのこと。驚くほど上品な柔らかさと甘みがあるアワビに仕上がっている。
4.白エビ、カラスミ、アオリイカ
当店のスペシャリテ。甘みと塩味、とろみと歯ごたえが、口の中で絡まり溶け合う。
5.マツタケのフライ(岩手)
マツタケは岩手産。うっすらした衣の中に香りを閉じ込めていて、力強い味わいと歯ごたえ。
6.フグの塩煮
この店らしい透明でしっかりした出汁に、淡泊なフグの身。
7.カマス
塩をあてて5日間熟成させたカマス。カマスは、塩味がしっかりして、ギンナンの甘みで中和させながらいただいた。
8.イワシ(氷見)
体長数センチで、このサイズと漁場が近い氷見ならではの特別な鮮度のよさがなければできない料理。イワシは傷みが早く、内臓からクサミが出やすい。このイワシは、内臓の状態が極めてよいものを使っている。食べてみると、イワシとは思えない、雑味がなく品のよいやさしい味わいだった。
天つゆは、砂糖・みりんを使わず煮干しの出汁からとったもので、かなり強い味。
9.アマダイとマツタケ
マツタケは、スープの中にたっぶり込められている。マツタケの香りをまとったアマダイは、肉厚で、身に張りと柔らかさがあり、ふくよかな味わい。
10.お造り(ヒラメ、しめ鯖、ボタンエビ) ※ボタンエビは15,000円コースのみ
ヒラメは、肉厚で甘みがあり、程よい歯ごたえ。しめ鯖は、優しくまろやかな締め方で、酢にすっぱさよりも旨味を感じる。サバは、脂ののりが丁度よく、脂身はサクサクと鮮度のよい食感。ボタンエビは、内臓もきれいでエグミがなく、おいしく食べられた。
11.賀茂ナスの胡麻あんかけ
賀茂ナスは、とろける柔らかさで甘みがあり、白ゴマのやさしい風味と山椒のアクセントもよい。通常、当店では、出汁の旨味だけで供するところだが、「引き算だけではない」のを示そうと、あえて足し算をした一品。コースの中のアクセントとして、こういう料理が2,3品あってもいいだろう。
12.マナガツオの焼き物
脂が乗っていて、店主によると「きょうは当たりを引いた」という上物とのこと。さわやかな辛味のワサビが丁度よくきいている。
13.イチジクの赤酢煮
赤酢はまろやかで、酸っぱさは感じず、イチジクの自然のままの味わいがして、後味がさっぱりしている。
14.イクラご飯 ※(11,000円コースは、おにぎり)
イクラは、これだけあればイクラの軍艦巻きがいくつできるのか、と思うほどの大盛り。塩加減がほどよく、甘みがあって飽きが来ない。
15.白インゲンの水羊羹
当店が得意とする水羊羹。市販の商品では出せない繊細な滑らかさと、やさしい甘み。
1つ1つの料理は、いつもながら上品な薄味だ。ただ、今回は、最後のイクラも含めて塩味の料理が多く、喉が渇いた。もったいないからと、出汁まで全部飲んだのが失敗だった。また、中盤は、出汁と塩の味つけの料理が続いて、だんだん、しんどくなった。料理を出す順序で変化をつければ、かなり違ったかもしれない。
【CP】
東京の人気店の中には、フォアグラ、キャビア、トリュフなどの高級食材を使って変化と刺激を加え、3万、4万する日本料理を結構見かける。冨久屋は、高級素材でなくても上質の味わいを引き出す料理だから、6,000円のコースでも、この店のよさは十分に味わえる。値段の安いコースの方が、単純なコストパフォーマンスはよいと言えるが、総合的な満足度がどうかは、人によって受けとめ方が異なると思われる。
【総合評価】
今回は、コース全体としては、味の単調さと塩気の多さを感じてしまったが、1つ1つの料理はよくて、コストパフォーマンスは相変わらず非常に高い。
ミシュランの星を超えて貫く日本料理の真髄
冨久屋の料理は、ストイックなまでにシンプルで飾らない。水墨画のように奥深く研ぎ澄まされた「引き算の料理」だ。季節の素材を生かし、見た目の華やかさとか刺激やインパクトではなく、その奥にある深い味わいや旨味を求める。日本料理の真髄を貫いている。先日、ミシュランガイド北陸2021特別版で、1つ星を獲得した。富山の日本料理店で2016年から星を維持しているのは、山崎と冨久屋の2店だけだ。禅のような和食の美学、きわめて良心的な価格、ぬくもりを感じる空間には、星の数以上の価値がある。
【料理、味】
晩春の5月らしい多彩な山海の素材がもりだくさんで、いつもよりずっと長い3時間半近くかかるコースだった。素材は富山のものを中心にし、いいものは独自のルートで全国から取り寄せて使っている。
(1万円のコース。税サ込みで計11,550円)。
1.シロエビのカラスミ添え
定番のスペシャリテ。ただ、今日は大半シロエビで、歯ごたえのアクセントになるアカイカはごく控えめだった。シロエビのとろける甘みとカラスミのねっとりした塩気の組み合わせがよい。
2.うすい豆の冷製すり流し
うすい豆(グリーンピース)を細かい粒子にして、出汁に溶け込ませている。お抹茶のような舌触りで、豆の自然な風味と香りが滋味深い。
3.稚鮎の炭火焼き
川に放流された稚鮎が海に出たときに獲ったもの(氷見産)。体長数センチ、煮干しぐらいのサイズで、磯の香りがたつ。大きい鮎の身のようなふっくら感はないものの、鮎のうまみとやさしい苦みがあり、小さいながら驚きのある味わいだ。
4.たらの芽の天ぷら
今春ほぼ最後の山菜・たらの芽を、青首のカモとクマの脂で揚げた。ジビエのやさしくきれいな脂が、たらの芽のクセを包み込み、苦みをマイルドにし、さらに甘みを加えている。
5.あん肝
取引先の魚屋に、あん肝はいつがおいしいのか聞いたところ、実は5、6月だということがわかったそうだ。これまで他店で食べてきたものに比べて、くどくなくすっきり滑らかで、デザートのムースのように感じた。聞きそびれたが、加減酢と醤油でさっぱりした味つけにしているようだ。
6.フグの白子のお吸い物
フグの白子は、冬に限らずこの時期にもよく出てくる。店主によると、カツオ出汁は、飲み込んだときにスっと引いて、上澄みの余韻だけ残るのがいいのだそうだ。このお吸い物の出汁は、カツオのとんがったところが全く感じられず、限りなくやさしい余韻でできている。白子は、表面は香ばしく、中はすっきり繊細で滑らかだ。
7.大根とはまぐりの煮物
大根は、鍋から白い泡が吹き上がるぐらい煮立て、丹念に表面のアクをすくい取り、塩分濃度をチェックする。途中に何度も水を足しては、その作業を繰り返し、透き通って柔らかくなるまで煮込み、大根の旨味を引き出している。大根が主役で、ハマグリの旨味は隠し味になっている。
8.甘鯛の唐揚げ
店主お気に入りのメニューで、ほぼ通年出てくる。香りがよく、外はパリっと、中はふんわり。味つけは淡く、甘鯛をダイレクトに感じる。
9.お造り
タイ(明石)、メジマグロ(氷見)、マナガツオ(四方)。明石の鯛は、旨味が強く、身に張りと歯ごたえがありながら、口溶け滑らかで、普段食べているタイとは別格な感じがする。天然の生け簀富山湾も、これにはかなわない。マナガツオは、カツオとは別物の白身の魚で、しこしこした歯ごたえがある。
10.水茄子の煮物
みずみずしくさっぱりした水茄子は泉州産。ナスだけだと物足りない感じになるから、脂とエビの旨味を微妙に加えて、さっぱりしていながら味に厚みがあり、満足感が得られるようにしている。
11.タケノコと熊(おまけのメニュー)
熊の脂身は、くどくなくてすっきりとした上品な甘み。タケノコは、灰(アク)抜きはするが、その灰汁を含んだ風味と熊の脂身が合わさってコクと深みのあるスープになっている。
12.ますの木の芽焼き
皮目はパリっとして、身はふっくら焼き上がっている。ますは氷見産で、エサとしてエビを食べていて、香りがいいとのこと。また、店主いわく、ますには絶対に木の芽(山椒の若芽)が合う。ますは、サケよりもきめ細かでやさしい味わいで、木の芽が味を引き締めているようだ。
13.天然のミツバのお浸し
ミツバは、冷蔵庫と氷で、きんきんに冷やしてある。鍋やお吸い物にちらすミツバとは大分イメージが違う。「春の雪解け水のように体になじむ」イメージで作ったとのこと。さっぱりとしながらホウレンソウ的な味わいも感じるミツバを食べ進めると、下の方に潜んでいた海苔の風味が最後にふわっと広がり、2段階で違った味を楽しむ仕掛けになっている。
14.おにぎり、香の物、味噌汁
米は南砺市の有機米コシヒカリ。南部鉄器の鍋で強火・短時間(約11分?)で炊き上げ、最後は弱火でちょろちょろ蒸らし、お櫃に移して水分調整し、粒立ちがよく、きりっとしたご飯に仕上げる。炊飯器のご飯は、時間をかけて炊くので、甘味や香りが強く、粘りと柔らかさがあるが、それとはかなり違い、より穀物としての米粒の存在感を感じるおにぎりだ。
15.自家製の白玉あんみつ
寒天は、透き通って美しくみずみずしい。口の中に入れると、それまでギリギリ固体の形を保っていたものが、一瞬で溶けて流れる。白玉は、もちっとして歯ごたえが心地よい。小豆は、和三盆と氷砂糖で炊き上げ、まろやかで独特の風味がある。テイクアウトや保存はできない、一流の日本料理店ならではの繊細な水菓子だ。
【雰囲気】
元はバーか何かだった建物と内装だから、バーで和食を食べているような気がしなくもない。店主や他のスタッフの方のお人柄が温かく、居心地がよくて気持ちが安らぐからいいけれど、富山で2つ星の「山崎」や「ふじ居」のように、風情のある数寄屋造りの一軒家の檜のカウンターで同じ料理を食べたとしたら、少なからず違った感じ方になるような気がする。ミシュランの基準は「料理だけ」としているが、料理を食べる空間が、評価に全く無関係ではないだろう。例えば、東京の鰻で1つ星の2店(野田岩、いしばし)が、どちらも風情のある和風の建物であるのは、偶然とは思えない。
【CP】
これだけの品数とクオリティーの高さで1万円ちょっとなのは、何だか申し訳ないぐらいだ。
【総合評価、感想】
店主自身、ミシュランの星と自分が好きな料理との間で、多少は葛藤があるらしい。しかし、この店には、ミシュランの星では計れない貴重な価値がある。星の数を増やすための小細工は、この店には必要ない(ちなみに、浅草の2つ星フレンチ・オマージュの荒井昇シェフは、梶谷農園のエディブルフラワーを使ったら星が1つ増えたと言っていた)
【参考情報】
ミシュラン北陸2021の発表を受けて、都道府県別(京都・大阪は市、東京は23区のみ)に人口あたりの星つき店の件数を数えたところ、京都、大阪、石川、東京、富山がベスト5だった。北陸2県の健闘が目をひく。ちなみに今回のミシュランの調査員は、フランス人ではなく日本人だったそうです。
日本のレストランは、1980年代後半のバブル景気や1990年代の「料理の鉄人」などによるグルメブームを経て、2007年のミシュラン東京版発刊以降、料理がさらにハイレベル化していった。ミシュランの影響で、値上げやメニューの見直しをした店も少なくない。ベルナルド・ロワゾーのように、星に取り憑かれて猟銃自殺したという説のある3つ星シェフもいる。大阪の3つ星店HAJIMEの米田肇シェフも、重圧に苦しみ自殺を考えたという。てんぷらの「七丁目京星」は、3つ星獲得で電話と悪質な客が増えて混乱し、ミシュランも食べログも掲載をやめた。ミシュランには、いろいろと功罪がある。
旨味あふれる“熊葱汁”、朝獲れのミンククジラの漬け
「シンプル・イズ・ベスト」を貫く珠玉のお店。四季折々の豊かな自然の恵みに満ちた富山の食材を中心に、厳選された素材を生かした冬のコース料理は、どれも繊細で味わい深い。猟師から1頭買いしたクマ鍋や、朝獲れたばかりの新鮮なクジラの漬けなどもある。こんな日本料理がリーズナブルに食べられる店は、他にはなかなかないだろう。
【料理、味】
この日の詳細は以下の通り(1万円のコース+飲み物一合で1,100円+税サで計12,820円)。
1.えび芋(大阪・富田林産)
見た目は素朴だが、味はやさしく上品で、ねっとり感とほくほく感が混ざったような口溶けだ。えび芋は9割が静岡産とのことだが、大阪・富田林産が断然安定して高品質とのこと。
2.真鱈の白子、はまぐりの出汁
真鱈は、クセのないやさしい味で、滑らかでクリーミーに口の中で溶ける。ハマグリの出汁は、最初の一口は塩気を感じるが、次第に旨味が深まる。その出汁が真鱈に染みこみ過ぎない程度に抑えて炊いているとのこと。
3.ミンククジラの漬けと針生姜
クジラは富山湾で朝獲れたばかりで、仕入れた時にはまだぬくもりがあったそうだ。筋の少ない部位を漬けにして、砂糖水につけた生姜とともに食す。歯ごたえがあってみずみずしく、こんなに鮮度のよいクジラは当然初めてだ。「漬けも生姜もなしで、そのまま出してもよかったかも」と店主は苦笑いした。
4. フグのしおり
フグも富山湾で獲れる。出汁はほのかな塩味で、あたかも白湯をはっているかのように究極的に淡く澄んでいる。
5. エボダイの酢締め
エボダイはクセのある魚だが、酢で締めると旨味が出てくる。それをワサビと合わせて食す。ちなみに、富山は、漁場まで30分と近いため、小鰯のように痛みやすい小さな魚のおいしさを最大限生かせるのだという。
6.アマダイの唐揚げ
表面はパリっとして、身はふっくら柔らかくて、アマダイそのものの旨味が伝わってくる。味付けは、酒で薄めた生姜醤油にくぐらせて塩をしているが、調味料の味が先に出ないように抑えている。
7.シロエビとアオリイカのお造り、カラスミ添え
このお店の定番のスペシャリテ。シロエビの甘みとカラスミの塩気とイカのコリコリの食感の組み合わせがいい。
8.本ズワイガニのしんじょう
薄味で上品なお吸い物だ。
9.お造り(メジマグロ、ボタンエビ、トラフグ)
いずれも富山産。メジマグロは新湊、ボタンエビは岩瀬。メジマグロは本マグロの幼魚だが、子供とはいえ、脂ものっていて、大人のマグロに遜色ないおいしさだった。トラフグは、薄造りではなく、しっかり厚みと歯ごたえがある。塩とカボスでいただく。
10.南砺産のクマとネギの鍋物
当店の冬の看板メニュー。クマの脂とネギの甘みと香りが溢れる逸品。素材の味を引き立たせるため、味付けは塩だけ。絶妙の煮込み加減で供される。クマは、冬眠前に木の実を食べて植物性のオメガ3系の脂を蓄えていて、臭みも脂っこさもなく、スッキリした味わいだ。脂身がきれいで、ジビエと呼ぶのがはばかられる上品な一品だ。
クマは、ロースが一番香りがよく、メスの方が脂身がきれいだという。また、冬眠明けのクマは、肉質が柔らかいのだそうだ。今年はクマが不猟で、なじみの猟師から辛うじて1頭買いしたとのこと。ネギも、南砺の契約農家から、冬場の寒さで甘みを増したものを取り寄せている。
11. 氷見産のブリの焼き物
氷見のブリ。腹の部分は特に脂がのっていてジューシー。
12.春菊のおひたし
南砺の契約農家から届く有機栽培の春菊は、エグ味がなく、繊細で柔らかい。クマとブリの余韻を受けとめるのに好適な一品だ。
12.香の物、赤出汁
13.おにぎり
米は南砺のコシヒカリで、南部鉄器で炊き上げて、お櫃で水分調整している。電機炊飯器で炊いた米とは違う、粒立ってアルデンテな感じがする。日本の食事の締めは、やはりこれだと思わせる。
14.自家製の白玉あんみつ
缶詰や甘味処でよくみかけるようなものとは、味も食感も全く違う。寒天は、みずみずしく口溶けがよい爽やかなものだ。見た目も透明できれいだ。小豆は、沖縄の波照間島の希少な黒糖のみを使った黒蜜で味付けしている。
【飲み物】
ノーベル賞の晩餐会で供されたという純米吟醸の福寿(神戸)を選択(1合1100円)。すっきりとして飲みやすい、実にきれいなお酒だ。新酒を4種類飲み比べて1000円というメニューもあった。ワインのリストも充実している。ソフトドリンク類なども含めて良心的な価格だ。
【雰囲気】
カウンターでもテーブルでも、ゆったりとくつろいで食事ができる。
【サービス】
店主ともう1人の料理人の方が、いつもながら終始温かく気を遣い、料理についていろいろ話をしてくださった。
【CP】
この値段でこの料理をいただけるのだから、他の店に行く気になれないぐらいだ。
【総合評価】
このようなお店が地元富山にあるのは、本当に幸せなことだ。
この店でしか味わえない、簡素にして深く豊かな和食の極み
この店の料理は、「見た目の華やかさや余分なものを抑えて、食材の深く豊かな味わいを徹底的に追求した料理」である。富山ならではの食材も多く採り入れている。
今回は秋の料理だったが、その秋の表現は、いたって簡素で抑制的だ。いかにも秋という料理を期待していくと「あれ?」と思ってしまうが、それがまたこの店らしい。
【料理、味】
この日の詳細は以下の通り(1万円のコース+飲み物2杯で2,000円、税サ別で計13,800円)。
1.毛ガニの加減酢ゼリー
カニは魚津産。お店オリジナルの「加減酢」のやさしい酸味がカニの身とカニ味噌の旨味を引き立てている。
2.イクラのご飯
イクラは、塩加減が絶妙で、ご飯とイクラの味のハーモニーが楽しめる。
3.カマス、栗のかりんとう
カマスは、塩をあてて5日間じっくり熟成させて焼き、淡泊で水っぽいカマスのイメージを覆す旨味を出している。栗の「かりんとう」は、表面をかりんとう風に薄くコーティングしてあり、甘みが強い。
4.イチジクの赤酢
デザートと言ってもいい一品。イチジクは、蒸して香りを引き立たせてあり、見た目もきれいだ。赤酢は、酸味がマイルドでそのまま飲んでもおいしい。
5.エボダイ
店主によると、エボダイは味にクセがあるが、富山は漁場が近いのでクセの少ないエボダイが獲れる。生のままでは脂にクセがあるので、酢を加えてクセを抜き、ワサビをつけて食べる。
6.シロエビとアオリイカのカラスミ添え
このお店の定番のスペシャリテ。イカは、そのときどきで種類が変わるようだ。シロエビとイカをカラスミといっしょに食べて、複雑な味わいを楽しむのがおすすめの食べ方だ。シロエビとイカだけでも、おいしい。イカのコリコリの食感がいい。
7.真鱈の白子の椀物
マダラは、若いオスを使用している。皮が薄く、肉質がきめ細かく甘みが強いとのこと。輪島塗の器もきれいだ。
8.お造り(アラ、ボタンエビ、生サバ)
いずれも富山産。アラは1日寝かせたもの(店主によると、熟成はあまり好きではないが、アラ、クエだけは寝かせた方がおいしいとのこと)。ボタンエビは魚津産。サバは神経締めしてあり、サバとは思えないような歯ごたえと甘みを感じた。
9.アマダイとマツタケのスープ
あくまでアマダイが主役で、マツタケはスープの中にエッセンスが凝縮されている。最初に、マツタケの香りをまとったアマダイを食し、その後に、アマダイの旨味がしみたマツタケ味のスープを飲む。マツタケの姿はないが、マツタケを食したような気になった。
10.クロムツの焼き物
クロムツは、濃い口醤油にくぐらせて焼いてあり、魚の脂身の甘みを際立たせている。店主によると、富山産のクロムツは、アカムツ(ノドグロ)よりもおいしいという。確かに、脂の味だけでない旨味が感じられた。脂がのっていない回転寿司のノドグロは、さほど旨くはない。
11.春菊のおひたし
契約農家から届く秋の春菊を、エグ味が消える少し先まで炊いて甘みを引き出したもの。すき焼きの具などに使う一般的な春菊よりも柔らかくて繊細な味だ。ただ、春菊は春菊なので、すごくおいしいわけではなく、秋に春菊でなくてもよかったような・・
12.香の物、赤出汁
13.おにぎり
秋なので、キノコを使った炊き込みご飯でも出るのかと思ったら、塩味のみのおにぎりだった。米は、南部鉄器で炊き上げた、南砺のコシヒカリ。ほろほろのやさしい握り加減で、結構大きいが、すっと完食できた。でも、夏に食べた鮎のかゆがよかっただけに、やはり炊き込みご飯が食べたかった。
14.手亡豆の水羊羹
手亡(てぼう)豆は、シロインゲンの一種。非常になめらかな食感とすっきりした味わいで、夏に食した小豆の水羊羹と同様に美味だった。欲を言えば、秋を感じる何かが添えてあればさらによかった。
【飲み物】
新潟の純米大吟醸「洗心」は、飲みやすさと日本酒らしい豊かな味わいとを合わせもっていて、お酒があまり得意でない私でも、おいしくて幸せな気分になれた(半合1,300円)。日本酒は1合1000円前後のものが多く、ソフトドリンク類なども良心的な価格だ。
【雰囲気】
カウンターでもテーブルでも、堅苦しくなく、ゆったりと食事ができる。団体客が多少騒がしかったが、変に格式ばっておらず、リラックスできる場所だということだろう。
【サービス】
店主が終始温かく気を遣い、料理についていろいろ話をしてくださり、充実した3時間が過ぎた。他のスタッフ(若いイケメンも2人いた)も、ごく丁寧な対応だった。
【CP】
この値段で至福の料理をいただけるのは、本当に素晴らしいの一言だ。
【総合評価】
とにかく、味とコストパフォーマンスが秀逸だ。富山のこの店でしか味わえない料理だ。店主のお人柄も特筆できる。
この店の料理を食すと、「本当においしい日本料理、本当にいい和食の店とは、いかなるものなのか」と考えさせられる。価格を上げて高級食材を使い、見た目をより華やかにし、内装も変えれば、ミシュランの星の数は増えるかもしれない。日本料理の三つ星店の中には、トリュフを使ったり、「まき村」のようにA5ランクの和牛をどーんと出したりするところもあって、それはそれでおいしいし、決して悪くはない。フランス人の評価を得るには、その方が確実だろう。
しかし、この店には、そういう方向にブレない一貫した姿勢がある。この店の料理は、長谷川等伯の「松林図」のようなものだと思う。墨の濃淡と余白の美で松のみを描いた、日本絵画史上屈指の名品だ。一方で、単調で淡泊でつまらない絵だと思う人もいるだろう。料理にも同じようなことがあてはまる。化粧した美人と、すっぴんに近いのにきれいな人と、どちらに魅力を感じるか。この店の料理は、後者なのだ。
簡潔で繊細な料理、秀逸なCP、通う価値ある一軒
地元の食材を取り入れ、素材を生かす一見シンプルかつ繊細な料理を供する、富山県内屈指の一軒。簡素で飾らない、洗練された多くの皿で構成するコースは、満足度・CPが非常に高い。ときどき通って季節の料理と本物の味を楽しみたい貴重なお店だ。
【料理、味】
食したのは1万円のコース(別途サービス料5%、消費税10%)
1.ジュンサイの冷製茶碗蒸し
一般的なジュンサイのイメージはプルプル・ヌルヌルの食感だが、この一皿では、むしろシャキシャキとしたみずみずしさを強く感じた。玉子はやさしくなめらかで、出汁がほどよくきいている。
2.キスの”しおり”
キスの切り身を、塩と昆布だしですまし仕立てにした一品。キスと言えば、てんぷらのイメージだが、店主によると、フグの次ぐらいに出汁がでるのだという。澄み切った無色透明なキスの出汁は、見た目は上品であっさりの極みだが、口にしてみると、かなり力強い。キスの身は、箸でつまむとほろりと崩れるぐらいに柔らかい。てんぷらよりも、キスそのものの旨味がわかる。キスは、今は旬をやや過ぎているが、その方が、むしろおいしくなるというのが店主の持論だ。
3.岩瀬産ワタリガニのジュレ加減酢和え
塩気のある料理のあと、口直しになる爽やかな一皿。「加減酢」は、文字通り、酢の酸味の角が立たないようにバランスを加減した、当店オリジナルのお酢を称したものだ。
4.甘鯛の唐揚げ(新湊産)
外はパリっと、中はふんわりなのは当然だが、その完成度が高い。「これは味つけなしなのか?」と一瞬思うぐらい、調味料が自己主張せず、甘鯛そのものを味わっている感じを受けた。店主によると、塩と生姜醤油を使っているのだが、最初のひと口でまず甘鯛を感じるように、試行錯誤したのだそうだ。
5.白エビと赤イカのカラスミ添え
見た目は軍艦巻の白エビと似た感じだが、店主によると、白エビだけでは食感が柔らかいので、赤イカを加えたそうだ。赤イカは、繊維が細かい赤イカの「子」を使っている。確かに、白エビだけでは、トロっとしてどこかぼやけがちだが、赤イカのコリコリした食感がアクセントになり、カラスミの塩味も加わって、味に立体感が出ている。
6.ウナギと冬瓜の炊き物
コース全体を通して、味つけはやさしく上品で、出汁は総じて薄味だ。その中にあって、この一品は、生姜の辛みが適度なアクセントとしてきいている。ウナギ、冬瓜、生姜の組み合わせも夏らしい。
7.お造り(キジハタ、ボタンエビ、ハダテウニ)
キジハタの刺身は、白身に赤い模様が混じっているところは、タイに似ている。食感は、どうかするとプチプチに近いような小気味よい歯ごたえで、タイよりもすっきりした味だと感じた。ウニは、見た目は黄色味が薄くてカスタードクリームのように明るく、食感はクリーミー、ほろ苦さとともにすっきりとした甘みがあった。ボタンエビも甘くてうまかった。キジハタ、ボタンエビ、ウニの組み合わせは、味と食感の変化を楽しめた。
8.水茄子の煮物
店主によると、ナスは、梅雨時ということを考えて、さっぱりとした水茄子をチョイスしたそうだ。味つけは、さっぱりしていながら満足感の得られるギリギリの線で、絶妙な薄味になっていた。店主が、塩分濃度を測って確認している姿を見て、いつだったか、テレビで、京都の菊乃井の村田さんが「料理は化学だ」と言っていたのを思い出した。
9.穴子の塩焼き
穴子と言うと、濃厚なタレ(ツメ)で食べるイメージが強いが、このお店では、穴子の皮を磨き込んで臭みを取り除き、塩味だけでおいしく食べられるように仕上げている。タレの味ではなく、穴子そのものの味を堪能できた。
10.コロッケ
お客のリクエストにより作ってみた裏メニューとのこと。少しだけ洋食のテイストが加わることで、薄味で品数の多いコースに変化が加わって、アイディアとしてよいと思う。
11.ナガイモの天ぷら
ナガイモの天ぷらは、ナガイモとはわからないぐらいホクホクで甘みがあった。天つゆには、みりんの代わりに、煮詰めた日本酒を使っている。日本酒の方が、みりんよりも食べ疲れしないのだそうだ。
12.トマトの加減酢漬け
皮をむいた丸ごと1個のトマトと加減酢で、天ぷらを食べた後の口の中がさっぱりした。デザートのような彩りで、見た目もきれいだった。
13.香物
塩気が控えめで食べやすかった。
14.鮎がゆ
郡上八幡の清流、吉田川産の鮎をかゆ仕立てにした珍しい一品。鮎は、吉田川鮎は、特別なルートで釣り人から直接仕入れる希少品とのこと。鮎は、下流の長良川まで下ると、味が全然変わってしまうのだそうだ。店主によると、山代温泉に行ったときに、当地にゆかりの北大路魯山人の著書に、雑炊はフグが一番で、次が鮎だ、ことに郡上八幡あたりのがよい、と書いてあるのを見て、試してみたのだそうだ。鮎がゆは、意外ととろっとして濃厚だ。最初のうちは少し塩味を感じ、食べ進めるうちに旨味が増してくる。塩焼き以外にこういう味わい方もあるというのは、目からウロコだった。
15.水ようかん(自家製)
見た目はシンプルで飾り気はない。コースの最後にあんこだけでどうなのかな思いつつ、食べてみると、甘さは控えめ、非情に繊細でなめらかで、後味が実にすっきりしていた。市販品では、「たねや」の水ようかんがよいと思うが、みずみずしさが違う。店主いわく、持ち帰って食べる市販品と違い、賞味期限は5分もてばいいと思って作ったのだそうだ。
どの料理も、1つの皿にあまりいろいろなものを混ぜ込まず、ひとつひとつの食材ごとに、食材そのものをできるだけ生かす、という基本に徹している料理だと感じた。三つ星の日本料理店の中には、おいしいし見た目もきれいだが、複雑にアレンジしていて、何を食べているのかよくわからないような料理を出すところもある(神楽坂の「虎白」は好きなお店だが、そういう一面がある)。それに比して、このお店は、余計な装飾は施さない。あくまでシンプルであり、シンプルだからこそ難しいことを見事にクリアしているように思った。
コースの構成、食材の選択、味つけや調理方法にも、研ぎ澄まされた気配りと計算が行き届いているのを感じた。
【飲み物】
ワインなどもとりそろえていて、いろいろ選べる。日本酒は半合にもできて、それだと500円前後。値段をあまり気にせずに飲める。
【サービス】
訪問した日は、カウンターの客4名だけだったせいか、カウンター内の店主と料理人のお二人だけで応対されていた。絶えずカウンターの中で料理をしながらも、ちゃんと気配りをし、いろいろお話もしていただいた。京都の「祇園 さゝ木」や、富山では「鮨人」の店主など、芸人のようにしゃべる人もいるが、こちらの店主は、終始おだやかに、どちらかというと淡々と話す。そこに、料理に対する真摯な姿勢と、誠実なお人柄を感じた。
【雰囲気】
元はバーかスナックだったところを改装したような感じで、イスや机など(特にテーブル席のソファー)のインテリアは、あまり懐石料理のお店らしい趣ではない印象だ。ただ、別に気にはならない。東京三田の「晴山」もテーブル席は、あまり和の趣ではないと思った。
【CP】
料理のクオリティー、品数からして、非常に良心的で満足度が高い。下手に高級店でないところがいい。東京や京都のディナーでは望みえない、秀逸なコストパフォーマンスだと思う。
【総評】
季節ごとに訪れて、そのときどきの食材と料理を楽しみたいお店だ。富山で大切な客人をもてなすときは、まずこの店で間違いない。フランス人の嗜好を反映したミシュランの基準では、1つ星が妥当なのだろう。しかし、それとは違う、それ以上の価値があると思う。
(なお、今回は自分にとってハズレの品はなかったが、そのときどき、好みの問題で当たり外れはありうると思う)
Restaurant name |
Fukuya(Fukuya)
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Categories | Japanese Cuisine |
Phone number (for reservation and inquiry) |
076-461-3589 |
Reservation Availability |
Reservations available
24時間ポケットコンシェルジュにてオンライン予約が可能です。 |
Address |
富山県富山市白銀町7-7 2F |
Transportation |
富山市内電車荒町駅または西町駅から6~7分、中町駅から4~5分 183 meters from Nakamachi. |
Opening hours |
Business hours and holidays are subject to change, so please check with the restaurant before visiting. |
Budget |
¥10,000~¥14,999 |
Budget(Aggregate of reviews) |
¥15,000~¥19,999
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Method of payment |
Credit Cards Accepted (AMEX、JCB) Electronic money Not Accepted |
Number of seats |
20 Seats ( カウンター10席、テーブル4人×3席、最大20人まで。) |
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Private dining rooms |
not allowed |
Non-smoking/smoking |
No smoking at all tables |
Parking lot |
not allowed |
Space/facilities |
Comfortable space,Counter |
Drink |
Japanese sake (Nihonshu),Wine,Particular about Japanese sake (Nihonshu),Particular about wine |
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Food |
Particular about fish |
Occasion |
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Location |
Secluded restaurant |
Website | |
The opening day |
2015.9.10 |
一幅の水墨画を見るような、飾らない簡素な佇まいの日本料理、味や彩りをぎりぎりまでそぎ落として生まれる研ぎ澄まされた味。冨久屋の特徴は、当店のホームページに書いてある通り、日本料理の真髄というべき美学だ。店主の信念と誠実さが、食べて幸せな気分になれる料理と良心的な料金を実現している。
【料理、味】
食材は、富山のものを中心にしているが、特に地産地消を掲げているわけではない。富山だけにこだわらず、店主が本当に納得のいく、よりよいものを全国各地から取り寄せている(例えば、タイは明石、アユは吉田川、ナスは泉州など)。今回のコースの中では、牡蠣が赤穂、柿が京都、里芋は富田林と、富山だけにしばられず全国から厳選して出している。
日本料理だが、「八寸」がないのもこの店の特徴だ。薄味に徹し、料理は作り置きせずその場で仕上げ、装飾的なディスプレイはしない「水墨画の料理」だからだ。多分同じ理由で、おせち料理も出していない(ふじ居や来人喜人はぎ原は、年末に50~60食出す)。
今回は、11,550円(税10%+サービス料5%込み)のコース。従来と比べて料理が1~2品減った代わりに、デザートが2種類に増えた。
1.本ズワイガニ
すっきりした旨味のきれいな本ズワイガニに、加減酢ゼリーのさわやかな酸味と紫蘇の花の香り。
今年はズワイガニもブリもクマも、いろいろな食材がかつてなく危機的に品薄だという。富山の食材が、高値で買い取る他県に流れていて、値段も高騰していて苦慮しているとのこと。
2.甘鯛のおじや
行平鍋で歯ごたえしっかりめのアルデンテに仕上げた甘みのある米に、薄からず塩っぽくもない味つけで、甘鯛のほのかな香りと風味を溶け込ませている。
3.真鱈の白子
真ダラの白子をはまぐりの出汁で炊いたもの。
真ダラは、素材そのものの味をクリアに出すため、出汁をあまり染みこませないようにし、表面にまとわせる感じにしている。そのため、出汁は、薄味のようでいて、ややしっかりめに塩気をきかせている。真ダラは、皮はぷりっとして、中はトロっと滑らかに溶けて口の中でミルクのように液化する。
4.生ガキ
赤穂の生牡蠣を、牡蠣そのものの塩味とレモンともみじおろしでいただく。
赤穂が牡蠣の産地とは知らなかったが、食べてみると、雑味、生臭さ、牡蠣特有の強いクセなどがなく、本当に驚くほどすっきりしてきれいな味わいのカキだ。身がしっかりしていて、新鮮なホタテの刺身のようなソフトな食感で、水っぽくなく、持ち上げてもあまり変形しない。店主によると「火を入れても身が縮まない」とのこと。殻が扁平ではなく深さがあり、明太子的な肉厚の形で、サクっとした歯ごたえも感じる。牡蠣小屋とかオイスターバーの牡蠣とは全く別モノで、この味を知ってしまうと、もう、普通のカキは食べる気がしない。まさに感動的なレベルだ。
店主によると、能登の牡蠣・岩牡蠣などは少し雑味があり、自分が求めるレベルに達しているのは、赤穂の牡蠣など3つぐらいとのこと。店主からは「赤穂」としか聞かなかったが、ネットで調べたところ、「坂越(さこし)」の牡蠣ではないかと思われる。牡蠣が苦手な人でもおいしく食べられる、と書いていて、全くその通りだ。
5.白エビ、アオリイカ、自家製のカラスミ
当店でいつも必ず供されるスペシャリテ。イカとエビの甘みとねっとり感と歯ごたえに、カラスミの濃厚な塩味と紫蘇の花の香り。
6.甘鯛のお吸い物
じわっとしてふくよかな味わいの出汁に、やさしくしっとりして焼き目が香ばしい甘鯛。
7.お造り
メジマグロ、アラ、アジ。
メジマグロは、繊細な口当たりと甘み。アジはさくさく感のある歯ごたえのあとに、脂の旨味が出てくる。アラは、タイのような歯ごたえがあり、脂が乗っていて、噛んでいるとねっとりした旨味が出てくる。ちなみに、以前は1万円のコースにも入っていた富山エビ(ボタンエビ)は、1万5千のコースだけになった模様。
8.海老芋
海老芋は、大阪・富田林産で、つきあいのある関西の業者から仕入れている。しっとりしたきめの細かさが特長で、食べてみるとほくほく感もあり、やさしく上品な甘み。
9.サワラの利休焼き
利休焼きは、ゴマを使った焼き物で、今回のものは、表面に練りゴマを塗って焼いた。ねっとり濃厚な旨味と焦げた表面のサクサクした香ばしさが合わさり、薄味が多いコースの中で、わりとしっかりした味つけでメリハリをつけている。
10.春菊
南砺市の有機栽培の春菊のおひたし。
味つけはわずかな塩気と薄い出汁だけのようで、苦みはほとんどなく、濃厚な焼き物の後にさっぱりした口直しになった。
11.おにぎり
南砺のコシヒカリを南部鉄器で短時間で炊き上げて、お櫃で水分調整したご飯に海苔を巻いただけのシンプルなおにぎり。固めのアルデンテのご飯は、炊飯器のご飯とは違う、きりっとした甘みと力強い粒感の歯ごたえがある。人生最後の晩餐は、こんな白いご飯がいいと思えてくる。
なお、1万5千円のコースでは、炊き込みご飯やイクラご飯とか具材を加えたものになるようだ。
12.デザート
①代白柿
代白柿(だいしろがき)は、奈良県産の江戸柿などの渋柿を独特の方法で熟成させて渋抜きした京都特産の柿。トロトロになる少し手前で、ぎりぎりしっかり形を保っており、すっきりした上品な甘みと繊細な食感が絶妙。熟した渋柿は、どろっとして甘ったるくなりがちなのだが、この柿は違う。富山には「あんぽ柿」などの特産品があり、レボやふじ居といった名店も使っているが、代白柿にはそれを超える驚きがあった。
②もちきびのぜんざい
もちきびは、雑穀の一種。素朴な味わい。
【雰囲気】
コロナの感染状況が落ち着き、満席の盛況となり、テーブル席のグループの客が居酒屋の飲み会みたいににぎやかだった。格式ばった内装ではなく、居酒屋並みの6千円のコースもあり、バーテンスタイルのイケメンの学生アルバイトが接客する当店は、他の高級店のような落ち着いた上質な空間とは趣が異なるが、庶民がかしこまらずに気軽に楽しめるのが、この店らしいところだ。
【サービス】
満席で忙しい上に、料理している間にも予約の電話がいくつもかかってきて大変なのに、店主の大屋さんは、1人客にはちょくちょく声をかけて料理の話をしていた。
【CP】
食材高騰などにより、値上げする店が続出する中、当店は良心的な価格を据え置くかわりに、料理の品数を少し減らすなどの対応をしているようだ。サービス料5%というのも、実に控えめだ。抜群のコストパフォーマンスは健在だ。
【総合評価】
日本料理の真髄に触れながら、食べて心温まり幸せな気分になれる料理が、リーズナブルに楽しめるのは本当にありがたい。総合的なバランスとクオリティーという点では、富山の日本料理店の中で「ふじ居」が随一と思われるが、冨久屋は値段がその半額であることを考えると、肩を並べるだけの価値があると思う。