料理、サービス、空間と三拍子揃った「最高級のおもてなし」 : Nakamura

約束の時間に青と白の暖簾をくぐると、店内には正座した仲居さんが丁重にお迎えくださいます。手の消毒をした後、奥の右の部屋へと案内されました。

部屋の中央には朱塗りの長いテーブル。小さいが風情ある庭を眺められ、掛け軸の喫茶古の文字や美しい蓮の屏風。食事が始まる前から早くも和の世界に浸れ、うっとりしました。

まずは①滝川豆腐
豆乳入り豆腐を細長くカットし束ねた上に紫蘇の実とあおさを乗せ、薄めの出汁を添えてあります。箸を入れると一瞬で麺のようにくずれ、まるで美しい演出を見せられているかのようです。豆乳の味も濃い。豆腐のクリーム色、紫蘇の実の紫色、あおさの緑色のコントラストが美しい。

なかむらの名物、②白味噌雑煮
白味噌を地下を流れる井戸水だけで練り上げ、焼いた丸餅にそれを流し込み、和辛子が少々添えてある。白味噌の優しい甘さにほんのり感じる和辛子が溶け合い、香ばしくきめ細かな焼丸餅にからみ、もったりと温かい。

他の人が作ってもこの練り具合にはならず、六代目ご主人にし作れない技なのだそうです。こんなに美味しい味噌汁を食べたことがあったか、つい記憶を辿ってしまいます。

③ お造り
しまあじの焼き霜（柑橘醤油）、鱧の落とし（梅肉）、車海老（醤油）。あじを少し炙ってあるのは初めて食べたので新鮮でした。車海老も味が良く、鱧も季節を感じる。いずれも氷の上で冷たさが増し、より美味しさを感じさせます。

④ 碗物　鱧の葛たたき
透明な鱧出汁の中に、葛をはたきふんわりした大ぶりの鱧と黄身豆腐と歯応えのよいどんこ椎茸。鱧の上に梅肉、どんこの上に柚子スライスがそれぞれ乗せられ、二つの酸味がよいアクセントになっていました。
　　　
⑤ 煮物　鱧、ぐじの天ぷら、ずいきを薄葛餡で。
こちらにも軽く炙った肉厚の大きな鱧がたっぷり入り、ぐじは天ぷらで揚げてあるので外はカリッと中はふんわりして、ずいきとししとうが入っている。薄味だけどしっかりしたとろみ加減の薄葛餡の中に、天ぷらや焼きや素揚げの異なった調理法による食感の楽しさ、味わいがとても良かった。

⑥ 酢の物　冷たい鰻、岩もずく、じゅんさい、オクラのすり流し。
酢のきいた岩もずくとじゅんさいのつるりとした食感に、オクラをすり潰しふんわりとろりとなったものをかけ、そこに鰻の濃厚で甘い味付けが存在感を示します。

器を持ってかきこんで食べてくださいと言われましたので、遠慮せず思い切りお抹茶を飲むようにしてごくごくすすり食べました。お酢好きな私にとっても大満足なひと皿。

⑦ なかむらの名物、ぐじの酒焼き
ぐじをひと晩寝かせ酒を振りかけ焼き上げる。お酒の風味に強めの塩加減が混ざり合い、少しレアに焼かれていたぐじの旨味をより際立たせている。

骨と皮を残しておいて下さいと言われたので気をつけて食べたが、骨離れも良く食べやすかった。
　　
⑧ ぐじのスープ
先程の残しておいた骨と皮のお皿に、鉄瓶に入った昆布出汁をたっぷり注ぎ込む。骨と皮から出る旨味とお酒、塩気が昆布出汁に溶け出していて美味しい。初めて経験するひと皿でした。

⑨ お食事、香の物
生姜ご飯、油揚げ入り。少し固めに炊き上げられたご飯に、生姜と油揚げの千切りが入っている。生姜の爽やさと油揚げの甘み、コク、柔らかさが相まって良かったです。お代わりしたいほど美味しかった。香の物も漬け加減が良く、旨味をより感じさせている。

⑩ 水物　
竹の器に入った柔らかめのバニラアイスに梅のジュレをたっぷり掛けてあり、青梅の蜜煮、クコの実がトッピングしてあります。バニラの甘味、酸味を抑えた梅ジュレの組み合わせが和洋折衷のようで、こんなにも合うのかと新発見。とても美味しかったです。

食事を終えての感想です。。。
お料理は全て美味しかったです。古き良き京料理に、斬新でいて洗練された組み合わせ。ここでしか味わえない料理があり、驚きが多く、圧巻でした。

今回は季節がら鱧を三連続、なおかつ三種三様の料理法で味わう事が出来て、とても楽しませて頂きました。至福の時間でした。

ただ、中村さんの素晴らしさは決してお料理だけではありません。お店の方がお料理の説明をきちんとして下さる事や、食事にまつわる細かなこころ配りも、繊細さんである私にとってとても有り難く、最後まで居心地良く食事をする事が出来ました。

食事、お店の方の応対、テーブルを取り囲む空間、どれも普段では経験出来ない最高級のおもてなしをして頂きました。こうしたおもてなしを受けた方々の喜びと感謝の積み重ねが、一子相伝の歴史になっていくのだということを感じました。

ありがとうございました。また是非訪れたいです。