人形町に馴染み切ったお店 : Kawada

半年間、俺、お疲れさん、的な感じと、ここのところやたら意識する「日本橋を離れるかもしれない」と脳裏に掠める感じもあっての悔いが残らないようにと予約して訪れたお店。
OMAKASEを見ていると、たまーに1人の空きが流れて来るので、予定の合うところで取りに行くことができれば、という感じだろうか。

普段、フレンチや中華なんかの味が濃いものを中心に食べているので、イマイチ和食の良し悪しに舌が追い付いていないのだが、築地の〈井雪〉で修行した職人のお店で、系譜的には〈京味〉に連なるお店だとも聞き、何かを掴めるかもしれないとの期待もあり。
お酒を2合いただき、水も入れて、さすがにお値段のほうは50,000円は行かなかったけど、という中々ゴツイ値段だが、内容はとても充実している。繊細な味わいを湛えながら、どの品においても「ここが味わい所」というのを外さない。たとえば雲丹を茄子の田楽に乗せた品は、焼いた茄子の余熱で雲丹を温めて濃厚な味わいを強調しつつ、茄子が雲丹の味をバックボーンで支えるかのような構成で楽しめたし、定番の鱧と松茸の吸い物にしても、薄く切った松茸を生で上に添えることで、生・レア・火が入った状態のグラデーションを楽しめたり、繊細なれどわかりやすい。カマスの棒寿司、舞茸と銀杏の天ぷら、脂に満ちたのどぐろ焼き、松茸フライ、など、一つ一つのポーションは抑えつつ、起伏とバラエティに富んだ素晴らしい品の数々には文句のつけようがない。
最後の五種のご飯（松茸ごはん・鯛のごまだれをオカズに・卵黄の醤油漬けを乗せたTKG・ちりめん山椒乗せ・牛肉の時雨煮乗せ）も圧巻で、何だかこんなに素直に「和食って美味しい」って思えたのは初めてな気がしている。
全般的には、酒も一応あるけれど、酒よりも食事（ご飯）を楽しむお店という感じだろうか。
ここを、自分の基準点、座標軸にしよう。
そんな風に思える店に出逢うのが、ジャンルを攻略するうえでの第一歩。来月からは、もう少しだけ、意識的に、和食を攻めてみるとしますかね。

にしても。以前に入っていた鮨屋の居抜きで入ったせいもあるのだろうけれど、2019年2月に開店した、この界隈では新顔と言っていいお店ながら、賑々しくない佇まいといい、店に入った時から感じるお香のかおりといい、昔からここにあったような、人形町に馴染み切った感じがあるお店だ。