〜 イタリアンみたいな黒トリュフ醤油Soba 〜 : Japanizu soba noodles rutsuta

雨が降りそうな重たい空だ。

最近、有給消化というありがたいシステムの導入により、平日の昼間でも堂々と行列に加わることができる。こっそりと行列に加わったことがあるわけでない。せいぜい昼休みに堂々と3時間フレンチを楽しむ程度だ。

金曜日の14時過ぎに巣鴨に到着し、ディズニーシーの人気アトラクション並みにものすごい行列を覚悟しながら、僕は蔦に向かう。正直もっと早く訪れるつもりが寝坊した。まだ空から雨は落ちてこない。

蔦に到着すると10名程度の行列しかできていない。ん？想定していたよりもずっと少ない。番地を囲むような長蛇の列ができているのではなかったのか。あまりに少なすぎて、素直に並んでいいのかわからず、僕は店の周りをうろちょろする。明らかに挙動不審者だ。

何か残念な気持ちになりながら行列に加わると、すぐに食券を買うように言われる。ラッキーかもしれないが、闘う気満々で訪れた僕には、不戦勝で勝利したような、なんとも味気ない気分に陥る。まあ、先が見えるのは素晴らしいことだ。

僕は券売機で、黒トリュフチャーシュ味玉醤油Soba2,920円、というやつを買う。たぶんフルスペックだろう。

それからまた行列に加わり、ケータイをいじりながら待つ。相変わらず雨が降りそうな重たい空だ。ただ暑くも、寒くもなく、並ぶにはちょうどいい。それにしてもお腹が空いた、朝から何も口にしていない。

15分ぐらい待って店内に案内されると、またもや僕はカウンターの端に腰かけることになる。本当僕とこの端の関係は定めとしか言いようがない。

ほどなくお待ちかねの黒トリュフ醤油Sobaが現れる。たっぷりとイタリア産の黒トリュフが削られている。丸ごと使っているに違いない。まずはスープを味わってみる。微かにトリュフが香る中、旨味と熱を含んだスープであり、酸味が尾を引いていく。かえしの醤油は丸みを帯びている。

しばらくスープの余韻を待ってみたが、ややトリュフの香りとスープの旨味が弱いか。青森シャモロックや名古屋コーチンなど、4種の丸鶏に香味野菜を合わせた出汁だという。トリュフの香りはトリュフオイルが控え目なのだと察しはつくが。

次に麺を絡めて食べてみる。高級小麦がブレンドされるかん水麺に、出汁が染み込んでおり、滑らかに舌の上をすべっていく。ただやっぱり期待した旨味には至らない。魔法の粉を一切使用していないのはわかるが、酸味のほうが喉奥で尾を引いている。

チャーシュは文句なしだ。低温ローストやイベリコベジョータを使っているのだから間違いない。特に薄切りのベジョータは口の中に旨味が広がり、たまらなく美味しい。

食べ進めていくにつれて、スープにはやや深みが加わり、後半は味わい深くなる。いつも最後の楽しみにとっておく味玉は半熟ではなく、もう卵黄のスープであり、たまらなく美味しい。


上品な味つけのイタリアンで、トリュフの醤油Sobaを食べれば、きっとこんな感じなのだろう。


この日大西店主はいなかった。
やや物足りなさを感じながら外に出れば、もう誰も並んでいなかった。もっと寝坊すればよかったと少し後悔した。


喉の奥ではずっとスープの酸味が尾を引いていた。